最後の日、俺は彼女への気持ちをうちあけ、もう一緒にはいられない、と告げた。その何日か前に、結婚式には俺を呼べよ、と伝えたのに。
彼女はそれに『嘘つき』と告げた。
そんな気持ち、ずっと言ってほしくなかった、と。
気持ちを押しつけてでも、ずっと、ずっと、兄として、家族として、最後まで一緒にいてほしかった……という意味だろう。
だが、理解もしてくれた……と思う。
すまない。本当にすまない。
あのとき、ケコン式には呼べよ、と言ったのは……ギリギリの強がりだった。頭が真っ白で、なんとか言えたのが、それだった。
最後の日、俺は、あの子に気持ちを伝えるのに、自分が大得意な『文章』というツールを使った。これなら話す以上のことを伝えられるから。
あの子のほうは、文章がそれほど得意ではないのに、俺はその手段を選んでしまったのだ。
そんな手段におよんだのは、ほかにも理由はある。直接話すことも考えたが──俺が泣いて、話もろくにできなくなるだろうから。
あの子も泣くだろう。それは聞きたくなかったから。
だが、俺はそれを踏まえても、泣きじゃくりながらでも、彼女の泣く声を受け止めながらでも、頭が涙でグチャグチャのまま、伝えるべきことを言い落としても、声で伝えるべきではなかったのか? 彼女から、直接、罵りやエールを受けたほうが良かったのではないか?
ただ、のちのち、助かった一事がある。
あの子は現在20241001、『負けヒロインが多すぎる』というアニメを見ている。
ちょうど先週のアニメで、小鞠という、小リスのような女の子が、自分の気持ちをLINEで伝えているシーンがあった。
俺があの手段を選んだ理由とは違うが、文章で気持ちを人に伝える、というのに、ああいう解釈もあるのだと安心もした。俺は(それほど)卑怯ではないのかもしれない、と。
あの子はあのメッセージをどう受け取ったかは知らない。
だが、もしもまだ俺のことを覚えているなら、小鞠のやったことを、俺のやりたかったことと解釈してもらえても嬉しいと思う。あれは、俺のやったことを、極限まで好意的に評価した言葉だった。
何年も前から、彼女には、俺のことを忘れられるための動きをしてきた。
それでも、完全に忘れられるのは辛いことだから。
そろそろ、彼女が二十歳になったときの話にもどろうと思う。
ここから彼女との付き合いがいよいよ長くなったのだが、あまり長くは語らないことにする。
ほかならぬ俺自身が、自分のことをやらなくてはならない時がきているのだから。
もう少ししたら、こんなふうに、うしろを振り返るわけにはいかなくなるだろう。
ずっと前から、ここから先は、俺一人で行くと決めている。
血の誓いは、必ず果たされる。