15年にわたる恋心に終止符を打った。その15年の経緯を、俺の思い出づくりのために書いていく015

俺は彼女のそばから離れた。
彼女が理想の相手に出会った時こそ、その時なのだと、彼女のことを好きになった瞬間から決めていた。

だから、思いつく限り、最低最悪のタイミングで告白しよう、ラブラブ状態なら俺の入る余地は完全になくなっているし、その精神状態なら、彼女にダメージはほとんどない、その条件のそろった時、彼女のそばを離れるのだと、すでに10年近く前から決めていたわけだ。

だが、あのタイミングは完璧ではなかった。

彼女が彼氏報告をしてきたときから、三日目だったか四日目だっただろうか。

当初の予定では、そんな数日ではなく、半年は待つつもりだった。

できるだけアドバイスをして、最高潮にふたりの仲をとりもって……そこで告白し、遠ざかる……という予定だったが、できなかった。

想像していたよりも、はるかに心のダメージが大きかったのだ。俺は耐えられなかった。できるだけ、彼女を見たくなかった。

だから、俺は『最後の通信』を彼女に叩きつけるようにして、その場を離れた。発つ鳥あとを濁さず、というのが、いかに難しいか。

それは未曽有の不幸のようで、あれから一ヶ月以上がたっても、今もまだよく眠れない。

父親が死んだときと、どっちが辛かっただろうか。間違いなく彼女との別れだ。

父親は愛情だけは本物だったが、行動と理性は伴わなかった。

酒、タバコ、借金、女、ギャンブル……殺し以外はなんでもやった男だった。俺や家族の貯金にまで手をつけ、すべてを散財させ、無責任にあの世へ行った。

だから、父が死んだときには、かろうじて、1時間後に店にもどって接客しなくてはならなくても、なんとか強がりでしのぐことができた。そもそも、そんな最低のクズ親なのに、なぜ俺は泣き、なぜ悲しんだのか、よくわからない。家族とは、そういうものなのだろう。

だが、その悲しみを忘れるのは早かったと思う。

彼女のほうを……いつ、俺は忘れられるのだろうか。楽になりたい。

彼女の元を離れたことで、俺がほしかった野心の炎は、いまも逆巻いている。血の誓いを果たせと。

だから、忘れていいのだ。

昔のように冷たく、淡々と、人肌のない俺に戻っていいのだ。

だができない。

人が少しでも俺に優しくすると、傷口に手を添えられたような、風邪のときに看病してもらえるような安心感を覚える。

昔に、戻れない。

それは、俺が成長した証でもある。

だが、俺ばかりが辛い辛いというのもおかしな話だ。

彼女にとっても、15年前からの知り合いが、いきなり消えたのだ。彼女にとっても、この別れは……辛いものだったのではないか? その辛さの程度はわからないが。

まったくコンタクトを取っていないから、それはわからない。たまに、約束も何も忘れたふりをして『ちーす! いま気分どう? どうどう???』とか、昔みたいに楽しく会話をしたい衝動に駆られるが……それは絶対にやらないと誓っている。

できるだけ、彼女がこの日に辛くならないような距離感を保ってきたつもりだが、そんなことを語ってはいても、俺は彼女と面するのに、それほど理性的に、論理的に、コンクリートのように冷たくしたつもりはないし……あの暖かい彼女に、そんなことを、できるわけがなかった。

俺は矛盾だらけだ。

来てくれれば嬉しかったし、話してもらえれば心が安らいだ。俺は、彼女に何かを言う資格ぐらいはあるのだと信じることができた。




20241009しるす






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