彼女は別れ際に『共有してる動画アカウント、いつでも解除していいからね!』と告げた。
あんなギリギリの状態で、よく共有動画のことなんて、気にかける余力があったもんだと感心した。
俺は一刻も早く、彼女のそばから立ち去ることしか考えられなかったのに。
女はみんな、あんなことができるのか? それとも、彼女だけか? それはわからない。これだけ長くつきあう人と別れるのは、人生でこれが最後だからだ。
ただ思うのは、俺が彼女に毎回誕生日プレゼントやらクリスマスプレゼントやら、お祝いのコメントやらを送ったところで、彼女は俺に絶対に振り向くことはなかっただろう、ということだ。
それほど、俺は彼女にとってウェイトの高い人間ではなかった。
だが、そんなことはどうでもよかったのだ。
俺はこの思いを供物として捧げることで、障害を乗り越える力を手にする。失恋のエネルギーは何よりも強いことを知っているからだ。
俺はあの日、彼女を好きになった瞬間、こうすることを選んだのだ。それは、フラれた直後であっても、後悔だけはしなかった。
で、動画アカウントのことに話をもどすが……どうも彼女は、現時点で、俺と共有の動画アカウントを使っているらしいこと。別れて初めて、彼女のログを見てみたら……今も使っていることを知った。
何やってんだオメwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwかっこいいこと言ってたのにwwwwwwwwwwwwwww
と俺は笑ったのだが、思ってもみれば、これは彼女が、俺の生存を確認しに来ているのかもしれない。アカウントが生きている限り、俺は死んでいないのだけはわかるはずだから。
あるいは、動画タダノリちーーーっすwwwwwwwwwwwwくらいの感覚なのかもしれない。もはや交流を断ったので、確認する糸口はないが。
ただ、俺のその時の気分によって、彼女が俺を心配してアカウントを使いに来ているのか、あるいは単にタダノリちゃんをかましているのか、あるいは助けを求めているのか……結論がそのとき、そのときによって変わることである。
間違いないのは、彼女がそれを使うのを、嬉しいと思っていること。彼女は妹として俺と知り合ってくれたが、女性として意識した今も、それは変わらない。こんな形でも、彼女の役に立てるのが、この上なくうれしい。
彼女に、一方的に別れを告げるような形でフラれたわけだが、最後に俺はこう述べた。
『20年後、俺は君にコンタクトをとる。君が幸せかどうかを知るために』
20年もたてば、俺のこの恋愛感情は消えているだろう。だが5年後や10年後はまだわからない。まだ好きかもしれないから。
だが20年後なら、彼女も俺も老けきって、太って原型もなくなって……俺はハゲているかもしれない。そんな状態で会うことができれば、俺も少しは正気を保っていられるだろう。あるいは、死んでいるかもしれない。それならそれでいい。この思いを、あの世まで持ち出せるなら本望だ。
彼女のことを、俺はすでに、ほとんど忘れてしまっている。それでも今のところ、この約束を果たすつもりでいる。
だが、彼女が本当に危機に陥れば、20年がどうとは言わないつもりだ。だから、これを血の誓いにするかどうかは、まだ決めていない。血の誓いにすれば……本当にその通りにしてしまうからだ。
次の記事で終わりにする。次は、彼女の誕生日のときに。
人に見せられるような文章ではなかったが、ここまで書けて良かった。本当に良かった。
20241022しるす。