暗い、暗い、部屋とも、森林の中ともつかぬ所。
そこは、光だけでなく、あらゆるものがない世界だった。
音、空気、重力、温度、そして──命
いや、だが『外』は見えた。
『外』は前とうしろに二つあり……ひとつは海のような、空間の波がさざめく場所で(ただし、そこから聞こえる音は、
そこは、誰かの見ている景色なのか、めまぐるしく視界が動いたり、
「また一人、ここへ来たか。お前は、何ができる?」
金のプールポワンに純白のホーズをはいた、チョビヒゲの中年騎士が、黒くたゆたう波に脚を沈めながら、岸まで歩き近づく女に、
その女は、黒い肌にボリュームのあるスカート姿だった。
「アタイは……
騎士の高圧的な質問に
「洗濯婦?」
騎士は、まるで女に陸地へ上がられるのをこばむように、波打ち
「それがここで何の役に立つ。私は祖国で騎士をやっていた。この
「あんたの、そういう
「? 私はお前なんぞに仕事をさせたことはないぞ?」
「あんたの白い肌を見てるとイラつくって言ってんだよ!」
「静かにしてくれない?
カラフルな布地を混ぜ合わせた服の少女が、手を合わせ、目を伏せたまま忠告した。
「また、ヒト臭くなった。ここは狭すぎる」
今度はその少女の
「ここの犬はしゃべるのかい……犬は犬らしくワンワンとだけ鳴いてりゃいいだろうさね」
騎士にからまれていらだっている洗濯婦が、その怒りの余波を犬にぶつけた。
と、そこで新入りの洗濯婦は、犬のうしろに、二人の影があることに気づいた。
一人は、玉座のような黄金の椅子に脚を組んで腰掛け、その足元にライオンを従える、
その隣にも、別の女が
二人とも、顔は
「新入りのあなたには、わからないだろうから忠告しとく。そこのお二人には……話しかけられない限り、何も言わないほうがいいよ」
カラフル少女が、祈りのための手合わせをやめないまま、
「ともかく、私はここを出るぞ」
大型犬が身体を起こし、先ほど女がやってきた『海岸』のほうへ歩き出す。
「此岸へ行かれると? あなた様がここを離れたら、これはもはや
騎士が、洗濯婦に対するのとは打って変わった、ていねいな口調で
「構うものか。こんな『物』では、私の願いをかなえることなど不可能……」
大型犬がそう告げて、その場を去ろうとした時、だった。
黒い闇の中に、ビュオっと音を立てて、強烈な
その風で、誰かが吹き飛ぶようなことはなかったが、大型犬だけは、その風を浴びるや、大きな耳が弱々しく
その風は──半裸の女から発せられているようだった。
「……ま、まあ、もう少しだけ、ここに居てやろう……だが、もう少しだけだ」
大型犬はそう