「──と、いう風なことで、命からがら、荒れる川に飛び込んで、生き
全身白ずくめの着物・袴でまとめた少年は、ケヤキの
「おかげで、二年経った今もこうして、元気に
僕、二年以上前のことも覚えてないんですよ。記憶がはっきりしてるのは、川に落ちたあと、下流の
かわいそうでしょう? さっき話した、刀を持った老人に追い詰められてる以前の記憶が、全然ないってことです」
少年は言いながら、ヒゲ男の心臓を貫いている刀を抜いた。
刀の切っ先によって流血をとどめられたヒゲ男の胸からは、黒く
刀は、どういう経緯をたどったかは不明だが……刃先から刃の根元まで、あたかも
刀を地面にいったん突き刺すと、少年は
「傷口にはこれがいいって聞いたけど、治らないな……たちどころに治るって、旅で出会った人に聞いたんだけど」
少年は明るい口調で、勝手にヒゲ男──死体に向けてしゃべり続ける。
「お侍さん、あなた……ずいぶんときつい体臭ですね……何度も嗅いできましたけど、これはいまだに慣れません。おかげで、ここを知ることができたわけですが。
少年は男から目を離し、
「それにしても、ここが暗い場所じゃなくて良かった。暗かったら、この刀も手に入れることはかなわなかったでしょう……え? どこへ行くかって?」
少年は死体にふたたび目を戻し、ひとりごとを続ける。
「江戸へ行きます。そこには、失われた僕の
少年──アズマは、死体の男の腰に下がった、ホオの木の