「ハア、ハァ……ば、化け物め」
月明りのない夜の
朝田の息はとっくに切れ、走りすぎたために、太ももは
しかも右足首のアキレス
刀も根元まで
「ば、化け物……ちくしょう」
朝田はうしろを
──先程、朝田が十四人の手下をそろえて、
気味の悪い光を、目や口からほとばしらせていたアズマが、顔を上げるや、手を
アズマのその
明らかに、アズマによる
にわかにおこなわれた、神隠し。
なにぶん、明治にも満たぬ幕末の世だ。説明できないもののほうが多い世界は、加持祈祷・迷信が強い影響力を人にもたらす。
未知のものへの畏怖も、そこから生じる。
「な、なんだこりゃ……!」
「よ、妖怪っ!?」
「ばけものだ!」
ほとんどヒステリーとも呼べる
だが、密室で火遊びをする者が、それだけの罰で済むはずはなかった。
落ちた三着の衣服から、もぞもぞと、小さい何かが
──ヒキガエルだった。
その場にいた者たちはいよいよ声を失い、顔をひきつらせる。
「人間をカエルに変えたのは、一年ぶりかな。だが私は、もともと戦うほうが好きでな……残った連中は、カエルにされたほうが幸せだったと思うことになる」
アズマは冷たくそうしゃべるが、その声は、低く重みのある女の声。
そのあとは、思い出したくもないような、一方的な
刃物としての『てい』を失っているはずの、アズマの『刃こぼれ刀』は、あたかも小枝の
朝田にだけは用があるらしく、今までずっと、刀を叩き折られたり、アキレス
「逃げるのをやめるなよ。それ、亀井とやらの所へ逃げこめ、奴ならば何とかしてくれるやもしれんぞ」
アズマがわざと距離をつめ、亀井に迫る。
「言っただろう、知らんのだ、奴の居場所など。俺が知るのは
朝田は
「……それで、あきらめると思うのか?」
そうたずねるアズマの声が、ようやくアズマ本来の、少年のハスキー声にもどった。
だが、その瞳に宿る
アズマの右手に持つ『刃こぼれ刀』が、消えた、かと思うほどの素早さで
そのとたん、朝田の鼻が、顔から切り離された。
「アゴオオオオオオアアアア!!」
朝田は鼻のあった場所から、
「ならば、そいつらも同じように
「グゥおぉ……わかった、しゃべる。しゃべるから……」
「だが待てよ」
そんな朝田のそばで、ふとアズマは首を
「仲介者を用意するなど、ずいぶん手が
その瞬間、朝田の
「ガッ……ごぼ」
朝田はひとしきり
「──その仲介者にも仲介者を
おおかた、家族を盾におどされているんだろう。そんな者は、意地でも吐かない場合が多い。何人も
アズマは言いながら、むくろとなった朝田の背中で、刀の血を
──アズマがそこを去って、しばらくして。
その場に、誰かがやってきた。
その人物は、しばらく朝田の死体を見つめていたが、やがてゆっくりとそれに近づいていった……。