ハノン・ジャガイモセンセー。
ファノンと名前の似た、
この友人の名前もたいがいだが、ファノンが気に食わないのは、自分の苗字である。
ファノン・パケプケモンテン。
この苗字について、かつてファノンはクリルにこぼしたことがある。
「俺、こんな名前いやだよ。ヒムロとかミッターマイヤーとかのほうが良かった。なんで人類の復活をやり遂げたとき、古代の人間たちの姓を与えなかったんだ、エノハ様は」
「さあ……エノハにとっては、このセントデルタの人間は自分が産み出したもの。だったら自分の子どもみたいに感じてるんじゃないかな? 人類も一人もいないし、自分の決定に文句を垂れる者もいないんだから、苗字もゼロから作れるとなると、かわいい名前にしたかったとか」
ファノンの愚痴に、そんな思いつきの持論をクリルが返してきた。
「とりあえず俺の名前、今からローエングラムにするわ。本当はヤンのほうが好きだけど。だってファノン・ヤンっていう名前にしたら、短すぎてゴージャス度が低いだろ?」
「……改名の法はセントデルタにはないからね?」
というふうなエピソードだが、そうかもしれない、とファノンが納得したのには理由がある。
つい最近、ファノンはメイのノートを見てしまったときがあったが、メイはそこに自作小説をしるしていて、そのペンネームが「うなぎもんじゃくん」だった。
たぶん響きがかわいいからメイも採用したのだろう。
追記しておくと、その自作小説をのぞいたことがバレて、ファノンは三日間、メイに口を聞いてもらえなかった。
「ジャガイモセンセーってのもないよな。あの人、教師でも何でもないのに、あだ名が先生だもんなあ」
「なあ、そういえばさ」
ファノンの独白に、メイが割りこんだ。
「先生とファノンって面識あったっけ」
「ハノン先生には世話になった」
「私は川遊びにつれてってもらってたけど。彼、サケをとるのうまかったよな」
「おー、おまえもか。俺もあいつと、夜の学校に忍び込んでゴキブリばらまいたりしてたな」
メイがすかさず、ファノンの脇腹にヒジ鉄を叩き込んだ。
「どぅるふっ!」
ファノンは妙な鳴き声をあげながら大小のルビー小石やガーネット小石の敷かれた舗道に膝をついた。
「あれ、お前らだったんだな」
そんな掛け合いを交差させていると、だった。
「クリル先生」
とつじょ、うしろからクリルを呼ぶ声があがった。
その声は
「あら、こんにちは」
クリルはその子どもに振り向き、屈託なくほほえんだ。
ファノンも彼のことは知っていた。
クリルの勤める学校の生徒で、よくハノン先生に肩車をしてもらっていた子供だった。
「こんにちはクリル先生。ぜひ、ジャガイモセンセーの
「……死んだハノンがいってたの? あたしに読め、と」
「はい、亡くなる前、是非クリル先生にたのみたいと。彼女なら面白く見送ってくれるだろう、といっておりました」
「ハア……それって遺言じゃない……」
クリルは頭をもたげた。
しばらく、何かを思案するというより、耐えるように沈黙したあと、クリルは面をあげた。
「ん……わかった」