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二日後。
人類最後の街・セントデルタの朝は、雲の出た日になると、たいへんカラフルになる。
大地の5分の1以上を占める宝石――直径1あるいは2キロメートルはざらにあるガーネットやトパーズ、ダイヤモンドやシトリン、エメラルドなどの高純度巨石が、太陽光を反射して、雲にその色を写しだすからだ。
ジュエル・プリズムと呼ばれる現象だが、セントデルタに住み慣れる人々に、その景色は、美しいとは感じられてはいるものの、珍しいものではない。
そんな朝の七分晴れ、メイが息を切らして、部屋に飛び込んできた。
「ファノンが……死んだぞ!」
「あ?」
ベッドに横たわり、漫画を読んでいたファノンが、顔をあげた。
ツチグモとの戦いによって、頭に包帯を巻き、頬や肩にもヤケドを負い、そこにアロエを
「突然きて、何いってんだお前。俺がもし今エロマンガを読んで何かに打ちこんでるのを目撃したら、どうするつもりだったんだよ」
「……すまん、言い間違えた……亡くなったのはファノンじゃなく、ハノン……ハノン先生だよ」
「ハノン先生が? いつ亡くなった」
ファノンは漫画を閉じて、メイにそうたずねるが、なぜ亡くなったのか、その理由は聞かなかった。
このセントデルタにいる人間なら誰しも、ひとが突然死ぬ理由は、ほぼ一つしかないことを知っている。
――それは、
ただし、ふつうの老衰ではない。
「昨日だよ。20歳になってたからな、ハノン……いつ逝ってもおかしくなかった」
メイは涙に声をぶれさせながら、こたえた。
「なぜ、俺に教えてくれなかったんだ……俺なら
「そういうのがイヤだったのさ、あの人は」
「……ハノン先生の葬式は今日の何時だ?」
「もうすぐだよ。遺体は祭壇へ。まもなくエノハ様が喪主を取り仕切りにいらっしゃるはず」
「
「クリルさんはどうする? まだ寝てたけど」
「起こすに決まってるだろ。あいつだってハノン先生とはよく酒を飲んでた」
ファノンがそう懐古していると、ゆっくり木の扉があいて、寝ぼけ
「『あいつ』じゃない……お姉ちゃんと呼べ……」
クリルは文字通り、先ほどまで睡魔の誘いに任せていたのだろう、胸元ののぞける紫のタンクトップ姿だった。
「クリル、起きてたか」
「今起きたところ。話は聞いちゃった……聞きたくない話だった」
「俺だって信じたくない。喪服着ろよ。飲みトモの葬式、行っとかないと後悔するぞ」
「当たり前じゃん。飲む理由がひとつ減ったんだし。文句、言いにいかなくちゃ……あたしの喪服どこ?」
「自分の部屋の、タンスのすみっこにかけてあったろ」
「えー……あそこ、あったっけかなあー」
クリルは頭をかきながら、きびすを返して自室にもどっていった。
「何でクリルさんの服の場所、知ってんだよ」
メイがツインテールを手で直しながら、いささか
「家族だしな」
「……それ以外にもあるんじゃないのかよ、この変態」
「しょうがないだろ、あいつが自分でやらないんだから、俺が片付けてんだよ」
ファノンが肩をすくめていると、クリルが真っ黒のワンピースを着てもどってきた。
「着替えたよ、いくよ皆」
「クリルさん……学校の教師とはおもえないルーズさですね」
「ルーズだけど、それ以上にキュートなクリルさんとして、今もモテ期まっしぐらだよ」
クリルはウインクとともに、ぺろりと舌を出したが、本当は気がそぞろなのだろう、声のトーンに、いつもの明るさは発揮できていなかった。