地底から、まるで大量の車輪を引き回すような地鳴りが聞こえるとともに、大地がせわしなく
その地震により木々がざわめくが、興奮しきっているノトは、そんなものに注意を向けはしなかった。
いや、ここにいる4人はみな、地震には気がついていたが、それどころではなかったのだ。
「ク、クリル……?」
ファノンは、何か様子の違うクリルに、よたよたと歩み寄っていった。
「ファ、ファノン……無事……?」
クリルは笑おうとしたつもりのようだが、じっさいは青ざめた顔をファノンに向けるだけだった。
それもすぐに耐えられなくなって、クリルはファノンに向けて寄れかかってきた。
「ど、どうしたんだ、クリル……おい……おいっ」
ファノンはクリルを抱きしめるが、みずからの顔のそばにあるクリルの表情から、みるみる力と生気が失われているのに気づいた。
「毒……毒を塗ってたのか。なんてことを……なぜ……なぜ、こんなことを……」
ファノンはたまらず、クリルを抱きすくめたまま、脱力したように地面にへたりこんだ。
「くそっ! 同居人め!! 邪魔をするな!」
後戻りできないと踏んだのだろう、ノトはおぼつかない手で、絡む茂みを引きちぎりながら、ファノンたちに近づき、ふたたび弓に矢をあてがった。
だがそのとき、不感症なノトにさえ、一目にわかる異変が、ファノンの五体を取り囲んでいることに気づいた。
ファノンの周囲から、黒い霧かモヤのようなものが、まるで景色を塗りつぶすように
「……ば、化け物っ!! この、ば、化け物ォォーっ!」
ノトは発狂したように、狙いもろくに定めず、弓を引いては矢を放った。
矢はほとんどファノンとクリルに当たらなかったが、当たったものも、すぐにその黒いモヤに包まれ、消滅していった。
しかしファノンのほうは、そんなノトの攻撃も迫害も、まったく頭にも入らず、ひたすらクリルだけに意識をあてがっていた。
「クリル……ウソだろ……? クリル…………」
「ファ……ノ……」
クリルの呼吸はみるみる荒れ、そして、みるみる不規則になっていく。
トリカブトを致死量に盛られた人間の余命は、1分。
トリカブト毒を受けた者は、速やかにその傷をえぐりとれば、まだ生きる目はあったかもしれないが、日常的に毒矢を用いる文化で生きていないファノンはもちろん、毒矢を放ったノトでさえ、そんな処置をとっさに思いつくことなど、できるはずがなかった。
命のリズムが失われる過程が、始まっていた。
息のできない苦しみが、クリルの思考をむしばんでいた。
――ファノンに言い残したいことは山ほどある。
それなのに、伝えたかったことも、見せたかったものも、クリルにはもう、語る気力も時間も……考える余力もない。
クリルの心を支配するのは、苦しみと、恐怖だけ。
「ファノ…………やだ……」
結局、クリルから出た言葉は、命
クリルとしても、セントデルタの人間として、死ぬ覚悟はしていたつもりだった。
死の
これでは、何か言葉を残せるはずはなかった。
クリルは血まみれの右手を、震えさせながらファノンに伸ばした。
「クリル……うそだ、うそだ、なあ、ダメだ、死ぬな」
ファノンはクリルの手を強くつかみ返した。
「死なないでくれ……死んじゃダメだ、俺、まだお前に話してないことがいっぱい……」
目の前に起こるできごとを否定するように、ファノンは泣きながら首を振る。
「ファ……ノン……」
「なんだ、クリル、なんだ」
「強く…………い……」
クリルは震える唇で、最後に、やっとのことでそれを口に出した。
ファノンは小さくうなずいて、クリルの瞳をのぞきこんだ。
そして、気づいた。
――クリルがもう、ファノンを見つめていない、ということに。
「……っ」
クリルの横顔に、ファノンは、あたかもその体温を分け与えるかのように、自らの頬をあてた。
その次の瞬間だった。
そばで見ていたリッカとノトは……いや、この二人だけでなく、離れていたメイやアエフ、モエクたちのような、セントデルタにいる人々や、森の
まず、星から、光が失われ始めたのだ――