天窓からのぞける遠くの夜空(日本とブラジルでは時刻が違うから、こちらでは始めから夜である)から、大量の人間の悲鳴のようなものが聞こえてくるが、人間が
もう少し長く夜空を観察していれば、その星々の光が、みるみる翳っているのにも気づいただろうが、フォーハードはそんなものに興味を示す時間も余裕もなかった。
「マスター……これは……この現象は……計測不能です。予測も不能です」
「そうだろうな」
アイドリングするガソリン車のように、揺れ続ける工場の鉄パイプにしがみつきながらも、フォーハードは不敵に笑おうとしたが……それは引きつっていた。
「反粒子が生成されているなら、通常粒子とのぶつかりあいで、大爆発が起こっているはずだ。だが、どうも、そうじゃない感じがする。目の前でのクリルの死。それが奴の感情を徹底的に追い込んだ。怒りでキレすぎて、言葉もでない状態だ。そんなときの超弦の力は、もっとも強いエネルギーを選択するってのは、さっき説明した通りだが……その前段階で、この星は消滅するかもしれないな」
「マスター……マスター……わたしは、死にたくありません。どうか、助けて下さい」
フォーハード同様、パイプを掴んでいたラストマンが、すぐ横にいるフォーハードの片腕にしがみついてきた。
「俺だって助からないよ。あきらめてくれ」
フォーハードは邪魔なその手を、次元の力で断つために右手をかざした。
そこに、野球ボールほどの異次元空間が開く。
「……離せよ、ラストマン」
離さなければ殺すぞ、という意味を
「わたしも一緒にお連れください」
ラストマンはまったく、引き下がらなかった。
「行っても死ぬんだぞ。ここにいるほうがいい、まだ他の仲間もいるからな。俺の進む先は、おそらく孤独な闇の中での死だ」
「それでもわたしは、1分先でも長らえるのなら、そちらを選びます。
それが生きるものの本懐でしょう。あなたがわたしたちに魂があるとおっしゃるなら、その思いを尊重すべきだ」
ラストマンの言葉はもはや、意見ではなく、主張だった。
だがかんじんのラストマン当人に、どうもその自覚はなさそうだった。
それに気づいたフォーハードは、短く息をついてから、会話を再開した。
「――良いだろう、もしもその先が闇の世界だった場合、俺は死ぬ……いや、そうでない世界だったとしても、俺は生きてはおれまい。だがもしかしたら、お前は生き延びて、そのさらに先の未来を見届けることができるかもしれないからな」
「マスター……それでは」
「一人くらい、俺の体に引っ付いていても、50億年や100億年、ジャンプしてみせるさ。もっとも、この爆発のあとで時間という概念が残っているかは知らないが――ん?」
フォーハードはそう決意を述べてから、異変に気づいた。
先ほどラストマンを破壊するために自分の意思で開いたはずの、手の平にくすぶる次元のエネルギーが、閉じていないことを。
「なんだ、これは……俺の力が……制御が効かん」
フォーハードは手のひらのエネルギーに念をこめるが、その意思とは裏腹に、勝手に次元のエネルギー体が肥大していた。
そのエネルギー体の向こうはおそらく真空なのだろう、強い風とともに、フォーハードの身体はその次元の穴に吸い込まれ始めた。
「こ、これは……俺の力じゃない。ファノンの力だ……信じられん、あいつ、俺の力にまで干渉している」
台風の中にいるかのように、髪の毛を逆毛に舞わせながら、フォーハードはみずからの手の中にくすぶる強いエネルギーのために、目をつぶって叫んだ。
「マスター……一体なにが」
「離せよラストマン。俺はこれから、地獄に行くようだ」
「いいえ、わたしはそれでも、あなたに付いて行きます……ここよりはマシかもしれませんから」
「ああ……あくまでも、ここよりはマシだから付いてくるだけなんだな……人間のエゴに似ていて
フォーハードが心細げにしゃべった瞬間。
そのフォーハードの手の中で小さく揺れていた力が、一気に膨れ上がって、2人をつつんでいった――