ファノンとメイは、葬儀が終わっても、ジルコンの
メイの右手の中には、
そんなファノンたちの背をしばらく見守っていた、モエク、ゴンゲン、アエフだったが、頃合いを見計らってモエクが帰路につくことを提案してきた。
「泣くことだ。泣いて泣いて、悲しみを洗い落とすことだ。じっさい涙には、何でもないときに流す涙と、悲しいときに流す涙では、
内服成分が違うそうだ。泣けば効果も成果も出る……彼には再起してもらいたいからね」
ルビー・ガーネット通りを、遅い歩調で戻りながら、モエクが空に照らされるジュエル・プリズムに向かってつぶやいた。
「何を強がっている、モエク。お前の目玉も、ここのルビーのように真っ赤だぞ」
「いちいち指摘するなよ、ゴンゲン……僕もいま、この無慈悲な現実をやりこめるのに忙しいんだ」
「お前も
「そりゃあ行きたいさ。むしろあのジルコンの蓋を開けて、後追いしたいくらいだよ……だが、それを本当にやりたいのは、僕じゃあないだろう。
まずは家族の時間だ。今日のところはファノンとメイに譲るよ。先に言っておくが、あの2人がジルコンの蓋の向こうに飛びおりようとしても、僕は止めないぞ……む?」
「どうしたモエク?」
モエクがにわかに難しそうな顔になったので、ゴンゲンがその理由をたずねた。
「少し気になったことがあるんだ。いや、昔から、ずっと疑念を抱いていたと言っても良いのかもしれない」
「何か感じたんですか、モエク」
アエフが重ねる。
「うん……そうなんだよ。確認する方法も今思いついたんだが……しばらくできそうにない。まあこれも、仮説というより、僕の勘に近いものだから、まだ何とも言えないな」
泣きすぎて眼球が痛いのだろう、目がしらを押さえてモエクが話す。
「なら、確信できた時にでも話してもらおうか。今から
ゴンゲンが暗いトーンで語る。
「いいですね、行きます。僕も何度もクリルさんに勉強を教えてもらったことがあるし。ファノンやメイのことはどうします?」
アエフがここにいる全員に元気を分けようとするように、努めて明るい声で提案した。
「葬儀の進行で忙しかっただろう、今日は休ませてやろう……俺たちは
「酒は
ゴンゲンの強引な勧めを、モエクはさらに強引な断り方で対処した。
「…………」
「………………」
「……他の飲み物でなら付き合おう……彼女の好きだった紅茶で良ければね」
場の空気が凍ったのを自覚したモエクが、無表情で訂正した。
「いつもの俺はウォッカなんだが……今日はクリルの奴を
ゴンゲンがしみじみとした表情で、腕を組んだ。
「彼女のことには
「え、それは美味しくないのでオレンジジュースがいいです。クリルさんは
「……」
「……ふっ」
ゴンゲンとモエクとアエフが含み笑いをする。
「あっ、そういえば」
そこでアエフが、別の話題を思いついたらしく、話を切り替えた。
「モンモさんは? さっきまで一緒にいたのに」
「そういえば、見ないな」
「そのうち合流するだろうさ、先に行こう」
いぶかるゴンゲンを制して、モエクが提案した。