11.昔日の

 それは、ファノンが7歳のころだった。

「おはよー! お前ら今すぐ昨日読んだマンガを報告しろ」

 その日の朝、小学校の教室に入ると、ファノンはそう叫んだ。

 それによって、苦笑いする男の子、軽蔑の視線を向ける女の子、そしてたくさんの、その言葉に慣れて無反応な男女の顔を見れる……はずだった。

 だが、この日の同級生たちの顔色は、いつもと大分、違った。

 皆が、ファノンを一瞥いちべつしたのち、目をそらしたのである。

「……おい、どうしたんだよ……俺はエロ漫画なんて読んでないぜ……?」

 ファノンはいつも遊ぶ男友達を見た。

 その子は沈黙とともにファノンを見返すだけだった。

「あー……まあ漫画で何を読んだかなんて、どうでもいいんだけどな。はははっ……」

 ファノンは片思いの女の子を見たが、その子は初めからファノンに背を向けて、他の女の子とひそひそ話していた。

「……なんだよ、お前ら……揃いも揃って」

 ファノンは口をとがらせて、自分の席に着いた。

 その日、なぜ同級生が冷たかったのか。

 ファノンは放課後になって、その理由を知った。

 アクアマリン通りに沿った、隣のクラスの男の子の家が、全焼したのである。

 家の中にいたその男の子と、育ての親は焼け死んだが――その犯人が、ファノンということになっていたのだ。

 ファノンはその男の子と二日前、殴り合いのケンカをしていた。

 当時からファノンが光を思う場所に集めることができることは、セントデルタ人全員が知っていた。

 出火元は外。

 犯人はファノンだと誰かがうそぶいたのが、めぐりめぐって学校中の子供たちのみならず、セントデルタ中の人間が知るところとなったのである。

「エノハ様……俺、やってないよ。俺、あいつとは確かに殴りあったけど、あのあと、ちゃんと仲直りだってしたんだぜ?」

 アレキサンドライトの塔の三階で、ファノンはエノハを見上げ、潔白を涙ながらに訴えた。

 エノハは何も語らず、ファノンと同じように……いや、ファノン以上に悲しげな表情で、ただファノンの頭を優しくなでるのみだった――

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