139.4つの力

「弱い力、強い力、電磁気力、それから重力……」

 セントデルタから離れた、ブラジル・カラジャス鉱山工場の中、フォーハードはモニターを見ながら、とつとつとつぶやいた。

 その視線は、ファノンよりはむしろ、巨大な人型兵器、チェルノスに注がれていた。

「この宇宙を構成する、旧代末期の四元素の話ですね。それがどうされたのですか」

 フォーハードと同じくパイプの欄干らんかんに両手を当てるラストマンが、横に立つフォーハードにたずねた。

「四元素か。風流な言い方をするね。古代ギリシャでは火・水・空気・土が世界を構成すると言っていたが、それから2000年たち、科学を突き詰めたら、やっぱり4つの力がこの世の構成に欠かせなかったとわかったんだ」

「その4つの力が、あれに関係あると?」

「……もともとは同じ力だそうだが、これらをすべて関連付けた、完全な究極理論が作られる前に、俺が人類を死滅させたから、けっきょくはわからずじまいだ。その究極理論というのが、超ひも理論……つまりファノンの超弦の力につながるはずなんだがな。

 まあ、それはともかく……チェルノスの奴は、あの4つの力を自在に操れるんだ。俺の次元の力や、ファノンの超弦の力の親戚しんせきみたいなもんだよ」

「となるとやはり、憎しみをエネルギー源とするのですか? しかしチェルノスは機械です。わたしたち機械が、憎しみを覚えると?」

「憎しみとは、学ぶものだからな」

「旧代、南アフリカ8代目の大統領ネルソン・マンデラの言葉ですね。赤ん坊は生まれたときから人を憎みはしない。伝えられ、教えられて人を憎むことを学ぶ、ということだそうです。ですがその言葉のあとには『憎しみが学べるなら、愛も学ぶことができるはずだ』とあったはずです」

「ホロコースター最終型チェルノスには、お前らラストマンを超える運動性能を与えたが、それはオマケにすぎない。それ以上に、あいつを製造するのに時間と金を費やしたのは、感情の育成だ。あいつは憎しみを覚えたが、その過程で愛も覚えた。だから、あいつはここにじゃなく、エノハの元にいることを望んだ」

「……チェルノスは異常なほど好戦的です。それも感情の発露はつろなのでしょう」

「あいつはファノンと戦いたがるだろう。その結果は……目に見えてるがな」

 フォーハードはモニターから目を離さないまま、首を小さく振った。

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