9ヶ月後。
フォーハードが現れてから1年近く
秋。
キンモクセイが
サケにとっては命がけの
まず、クマはサケを捕らえても、内臓しか食べない。彼らはサケを捕らえたら、森の奥へサケを持ち込み、内臓を食べた後はその死体を放置して、川に戻って次の生きた獲物を狙うのである。
そうして森の中で腐るサケは、海で蓄えたリンなどの栄養を陸地や川底へ根づかせ、木々を太らせ、落葉を呼びこみ、虫をいざない……その虫たちを食べることでサケの
「もしも」
2年前の秋、散歩の道すがら、クリルが強く深く流れる、深紺色のポワワワンの
「もしも、彼らサケが永遠の命を手に入れたら、この森にも川にも、これほどの
大地ってのはつまり、死を
「あー……よくわからないけど、つまりアレですか?」
クリルの
「ファノンの奴が、友達から5年ぐらい借りパクしたままの漫画があるんですけど……永遠の命を得るってのは、借りた本を持ち主に返さないのと同じってことですね?」
「姉ポジとしては、その話は流せないところだけど……まあ大体そんなところかな」
どこが面白かったのか、クリルはくすくす笑ったが、すぐに表情を
「世界の崩壊。それを最初に招いたのは格差だった。テロリズムが生まれた場所も、やはり貧困国だった。旧代に存在したISILという組織は、ようは貧しさと、それを
生み出した欧米への憎しみから生まれた組織だった。
格差社会で勝利を得たものは、金と情報を手にする。金と情報を手にした者は、その金で情報を操作することもできる。
ユダヤ資本のジンバブエ企業デビアスは、石ころにすぎないダイヤモンドを、世界への流通量を少なくすることで、人々が
ディズニーは著作権を引き伸ばして自らの利権を保護した。
金を得るために真実を
このセントデルタの前に存在した日本という国に、かつて日清食品って会社があった。
その会社は自社のインスタント食品のために、せっせとインドネシアの政治家に
あたしが問題と思うのは、それによる自然破壊はもちろんだけど、そのことを、人々が知らされないこと。日清のせいだけじゃないけど、インドネシアの森の8割が、この欲望の
その事実は、その会社の置かれる日本の国民には、伝えられなかった。テレビのスポンサーとして、とても有名なその会社は、ニュース番組にも意見をはさめてたからね。
こういうのは全部、金と情報の
そして情報操作によって道を進めなくなった人間は、勝ち組によって
けど、切らせるほうは
使役されるほうは、そこから
旧代末期は、シガラミまみれだったわけだね」
「えーと、クリルさん……すいません。シガラミの意味がわからなくて」
「あー……うーん……たとえばメイちゃんが、道をまっすぐ進みたいとするじゃん? でも、大きな壁があって遠回りしなきゃならないとき、その壁のことをシガラミって呼ぶんだよ。旧代はそのシガラミが、道のあらゆる場所にあったんだよ」
「悪い物ってことですね? でも、もったいなかったな。この話、ファノンにもしてやればいいのに」
「したんだよ。でもあの子、今んとこ、漫画以外に興味がないからねえー」
そこでクリルは困った顔で笑ったが、そのクリルの真意を、鋭敏なメイは気づいていた。
この話は、いずれファノンが、物事を知ることの重要性を認識したとき、メイの口からあらためてファノンに話してほしいことなのだ――
『姉ポジ』のクリルは、ファノンたちより早く闇に帰る。
その時までにファノンが
実際、クリルは予想よりはるかに早く闇に
皮肉なことに、クリルのこの談話は、メイの口を介してファノンの心の中へ復活することになるのである……。
「当時、ただでさえ深刻だった格差問題は、永遠の命の誕生によって、さらに加速した。そしてフォーハードが産まれ……世界は彼に
でも、たとえフォーハードが産まれなくても、何らかの形で終末が訪れたことだろうね」
そこまで論じたクリルは、またポワワワンの