3日後、朝の7時過ぎ。
早朝のその時間、セントデルタには濃い霧が出ていた。
だが、まるで街全体を揺さぶり起こそうとするかのように、遠くの
――自警団と町長とで
「来たな……」
町長の家の客間に置かれた、16人掛け長テーブルで、ファノンと向き合って朝食を取っていたメイが、ダイヤモンド窓を透かして見える景色を
2人の食事自体はかなり前に終わっており、食べ終わった食器をそのままに、クリルの思い出話をしていた所だった。
「俺もお前も、予想がはずれたな。フォーハードは朝に来たようだ。夜のほうが、目のきくラストマンは人間に比べて有利だと思い込んでたけど……実際は違ったな。モエクが生きてれば、この辺にも正確に予想を立ててたかもしれないな」
ファノンもまた、
「モエクが生きてたら、とか、無理な話はすんなよ。あいつは闇に帰るべくして、あの日に闇に帰った。
みんな協力してくれてるんだからな。フォーハードが悪事を働く前に、ロナリオさんがニニナさんに
「お前は人々を逃がす手伝いをしなくていいのか?」
「そのへんは全部、自警団だけで事足りるのさ。私はプランを提供しただけ。今さらだけど、やっぱりモンモさんの判断は正しかったと思うよ」
「ああ……お前とリッカを無理やり組ませたんだよな。磁石のS極とS極をくっつける、ムチャクチャな力技だと思ったもんだけど、結果オーライだった。トンネルを各家庭に作るなんてアイデアは、俺とコネのあるお前でないと、発想することも実行することもできなかったけど、こうしてフォーハードの動きに監視を光らせるのは、自警団長リッカでないとできなかった。さすが、
「何枚も
「……なあ、ファノン。フォーハードと戦って勝ったら……このあと、お前はエノハ様を倒しに行くんだろ?」
「そのつもりさ」
ファノンはダイヤの窓から目をそらして、メイを見つめた。
「ついに聞かなかったな……俺がモエクから預かった包みのこと」
「私が知るべきじゃないことが書かれてたんだろ? あれだけ口の軽いお前が
「……すまないな」
「
「俺はフォーハードもエノハ様も倒して、世界を幻想から
「それと同じぐらい、お前に感謝する人間も現れるはずさ。そんなことを気にする奴じゃないだろ? お前」
「そうだな……俺って、そういう奴だった。やっぱりお前は、頼りになるよ」
ファノンは小さく顔を上げて、天井を見つめて
「……」
「そろそろ逃げろよメイ……俺はもう行くからさ」
ファノンは背をひるがえし、町長室のドアノブに足を向けた。
「待て、ファノン」
メイが立ち上がって、いつもより高い声で、横切りかけるファノンをとどめた。
「お前……怖くないのかよ。相手はフォーハードだぞ。自分より強い奴に、何度も勝ち続けてきた奴だ」
「どうしたんだ? ナイーブだな、メイ」
「あ……あのな、ファノン……」
メイは切実な、もはや泣きそうと言っていいような顔で、ファノンに迫った。
――行かないでくれ。
――お前は人間を殺したことなんてないだろ。
――お前は宇宙最強の人間になったが、それでも、人殺しなんてできる奴じゃあない。
――相手がフォーハードとはいえ、ためらいなく倒せるのか?
――甘いお前のことだ……その
――お前じゃ、フォーハードに勝てはしない。
――だったら……逃げちまえよ。
――フォーハードから逃げちまうんだよ。
――運命がなんだってんだ。
――そんなもんが、人を幸せにするかってんだ。
――私は、お前がいなくなるかもしれないって思うだけで、心が崩れていきそうなんだ。
――なあ……わかってるぞ? お前だって、ホントは怖いんだろ?
――今すぐ、私と逃げるんだ。
――もう二度ときもいとか言わない、お前にして欲しい性格になる。お前のためなら何でもやる、何にでもなってやる、だからアポトーシスが迎えに来る、この残った4年間を、どこかの森の中で、静かに暮らそう。
――必ずいい人生だって言えるようにしてやる。
――だから私を置いてかないで……一人にしないで……。
そういう想いを、引っくるめて要約して、メイは次の句を放った。
「──いや……お前って相変わらず、きもい顔だなって思ったんだ」
「へへっ」
ファノンは鼻をすすった後、軽快に笑った。
「……じゃあ、このへんで。メイ……またな」
それは、3人で暮らしていたあの日に見慣れた、あの日のままの別れの