「リーダー役からの通信が
ラストマンはそう通信回線に吹き込みながら、台所に開けられたマンホールを
そこには相変わらず、透明な液体がのしかかっていた。
「こちら043、超弦の子の位置は把握できたから、マスター・フォーハードへ連絡する。超弦の子もまた、マスターを探しているのは自明のことだから、予定通り、セントデルタ外にいるラストマンまで、中継をつないでの連絡とする」
「了解だ。こちらリーダー002、081から090は超弦の子へ攻撃を。われわれはこのままマンホールへ突入……む?」
そうラストマンが通信をしかけたところで、にわかに、その回線に言葉が
「リーダー002……この地面の水、変だ。この水……-270度にもかかわらず凍っていないということは、液体ヘリウムなのではないか…………?」
そのラストマンがそうリーダー役へ
いきなり、ラストマンの目の前の水の分量が、まるで、見えない場所から土石流でも流れこんできたかのように、
「──いかん、高い場所から水が落下した……超流動が起こるぞ! 退避せよ!」
それが、リーダーを
いきなり
あまりの温度差で電子回路内に破損と
ラストマンを襲ったのは、彼らが予想したとおり、液体ヘリウムだった。
-269度(ファノンのものは-271度)にまで凍らせたヘリウムは、自然界では見せることのない現象を示すのである。
まず、液体ヘリウムは、周囲が少しぐらい熱くても、しばらく低温を続けるのである。
ひとたび生まれれば、冷たい水よりはるかに長く、その場に居残るのだ。
そして、超流動ヘリウムの真価は、もう一つある――
「リーダーHC-L002から通信が消えた。どうやら超流動のために、屋内の部隊は全滅したようだ」
屋根に登っていたラストマンが、立ち上がって、大通りを見下ろした。
そこでは、家から
そこらじゅうから、あまりの温度差のためにだろう、何枚かの宝石窓が割れていく際に、パリッ、パキンッと、凄まじい音を響かせていた。
「なんということだ……超流動は……超流動ヘリウムなら、ここも安全ではない」
ラストマンがそう
屋根の
「総員、セントデルタ外まで退避……!」
「退避方法を計算する……無理だ……逃げ場は、ない」
ラストマンは
――これこそ、超流動現象のもうひとつの特徴だった。
超流動体は、粘性がゼロになる。
簡単にいえば、液体にひとたび動きを加えれば、壁などを生物のように
人知を超えたラストマンを倒すには、法則を超えた攻撃を仕掛けないかぎり、それは不可能だ、と踏んだからこその、ファノンの策だった(ファノンはなるべく、セントデルタの街を無傷で残したいのもあった。わざわざ超流動などせずとも、たとえば、液体水素や酸素をそこらに発生させて、セントデルタごと爆破するなり、あるいは『ヘリウムの術』で街を丸ごと
「だが……超弦の子は、街だけをこれらで
膝まで凍らされつつあるラストマンは、オフライン化しつつある自我の最後の瞬間に、そう勝利宣言を残していった……。