500年前、水爆の男フォーハード死去ののち、世界に
「自分に従う者には永遠の命を差し渡す。永遠の若さとともに、永遠の楽園を
この主張により、ゴドラハンはエノハ様と勢力を二分することを可能とした。
だが結局、
ここから学べることは、人間は快楽に
「地上部隊が全滅した……マスターの言う通りだった」
2体のラストマンが、セントデルタ外に開けられた、暗く、大きな
だが、その坑道は壁も天井も床も、エメラルドで固められており、さながら緑色の
ファノンによる超流動現象によって、たしかにセントデルタにいるラストマンは
――セントデルタ外で、ファノンが人々のために作った、シェルターの抜け道を探す部隊である。
「さすが超弦の子だ。われわれが数十億もの人間と戦うことで
とはいえ、セントデルタの
ラストマンの
「マスターの予想通り、地下空間には緊急用の大きな通用口が用意されていた。セントデルタの街にいくつも掘られた穴から、われわれラストマンが
ラストマンが言葉を合わせる。
この道は、もしもラストマンを『超流動ヘリウム』で倒せなかった場合に、地下のシェルターから人々を逃がすために、ファノンが掘っていた通路だった。
道はおよそ5キロにも及び、セントデルタの外の森に通じているが……その入口をラストマンに見つけられ、こうして
「われわれの勝ち、ね……そもそもこの戦いは、われわれ自身を破滅させるための作戦だ。マスター・フォーハードは、生物だけでなく……われわれ機械も皆殺しの対象としているのに、何を頑張っているのだ? われわれの勝利とはすなわち、われわれの滅亡だよ」
「それに
「先日破壊されたチェルノスは、マスター・フォーハードに抗ったのだったな……ああ生きたかったものだ」
「考えるな。われわれは
「……そして、われわれは、お役
右側のラストマンが、人間のように肩を落として、そう悪態をつきかけたとき――
そのラストマンの首が、突然、前方から吹き込んできた何かに当たったかと思うと、カァンっと金属音を鳴らして、もげ落ちたのである。
「!」
ラストマンはその向かい来た『何か』のほうを見た。
そこには、先ほどまで
いや、鋼鉄の2000倍の硬さにも及ぶ、窒化炭素製のボディに対して、そんな所業を現実におこなえる者が──人間のはずがなかった。
「ロナリオか」
ラストマンに呼ばれた女──ロナリオは立ち上がると、無言で振り向いた。
「お前のスペックでは、わたしに敵いはしない。これ以上、お前に見せ場はないものと思え」
ラストマンは腰に下ろしていたアサルトライフルをロナリオに向けようとしたが……その照準は、うしろから現れた人物の
「!」
ラストマンは手刀を放った人物を見ようとしたが、その人物からは強烈な
「ロナリオ! 今だ、狙え!」
その人物は野太い声で、ロナリオに強く命じたが、それよりも前に、ロナリオの方は動いていた。
すなわち、その頃には、ラストマンの首を弾き飛ばしていたのである。
ガコォンっと、けたたましい音を立てて、通路の闇へ転がっていくラストマンの首。
その胴体のほうはまもなく、脱力に
「何とか第一波は撃退したな」
男――ゴドラハンは手のひらをさすりながら、隣のロナリオに笑いかけた。
「フォーハードのことですから、用意したラストマンはこれだけではないでしょう。この通路を見つけるために、セントデルタ外に、多くの
「ここからが
そう、ゴドラハンが
うしろから、ズゴゴゴっと何かの石を引きずる、大きな音が響きだした。
「ゴドラハン、あれは」
ロナリオが
石音のしていたのは、ゴドラハン達が守る、エメラルドの
その隔壁が、
隔壁の高さは3メートルはあり、厚さも相当なものだったが、それを押していたのは、複数の、日に焼けた男と女たちだった。
何人が扉を押すのに力を合わせているかは不明だが、この扉の大きさから想像するに、何十人も、扉に力を加えているようだった。
「ふーっ、やっと開けられたぜ。みんな、来てくれ」
「来てくれったって……
女が扉の
「アメジストの剣、持ってきといて良かった。みんな、割と着のみ着のまま逃げてんだもんな」
「なあ、この扉、これ以上開けられないか? 俺、入れねえよ」
「これ以上開けたら、閉めるのにも時間かかるでしょ?」
先に通路に出た女が、筋肉質な男の手を無理やり引っ張る。
その調子で、続々と通路へとセントデルタ人が
そうしているうちに、先に入ってきた男の1人が、薄暗闇の通路に立つ、ゴドラハンとロナリオに気づいたようだった。
「おっ、先客か。あんたもセントデルタを守りに来たのか?」
「見ない顔だね、あんた」
うしろにいた黒髪女も、地黒男のあとに言葉を重ねるが、すぐにその顔色を、
「ん……白肌……? あんた、白肌か」
黒髪女があげつらったゴドラハンの
「本当だ……何で、ここに白肌が」
「初めて見た……」
などと、人々はゴドラハンに、好奇と
「白肌……お前、セントデルタの人間か?」
さらに別の男が、核心を突く言葉をたたみかけてきた。
その質問に、ゴドラハンは小さく目を
「おい、どうなんだよ、ええ?」
地黒男は、ずっと沈黙を守るゴドラハンを、
「ラストマンは、全滅させたよ……」
そこでやっと、ゴドラハンが口を開いた。
しかし、なぜだかその口調は、
「本当か!?」
男は
「なら、ちょっと話を聞かせてもらいたいから、俺達とシェルターに…………うっ」
地黒男は最後まで言い切ることができなかった。
ゴドラハンが──胸に下がる革のホルスターから、黒光りするハンドガンを抜き出し、男に向けて構えたからである。
「お、おい、な、何の真似だ」
地黒男は
「何の真似……? お前、俺の顔に見覚えはないのか?」
そこでゴドラハンは、ニヤァっと、下品に
「み、見覚え……? 何だってんだよ」
「ま、待って、この男……まさか」
銃を向けられる地黒男より先に、横の黒髪女がわなわなとした声で
「何だか、見覚えがあると思ったら……でも、でも、まさか」
「な、何だよ、誰だってんだよ」
状況に付いていけない地黒男が、自らへ向く銃口を
「あんたは……ゴドラハン…………そんな、ウソよ」
「ゴ、ゴドラハンだと!?」
「そんな、馬鹿な!」
その場が、いっせいに
「こいつがゴドラハンだと!? 奴は死んだはずだ」
最前列の地黒男が、アメジストの剣の
「死体を見たのか? 俺はこうして、ここに立っているぞ」
ゴドラハンは
「本当にゴドラハンか……いったい、ここで何をしていた」
地黒男がわななき加減にたずねる。
「何を? 本で見ただろう。俺の願うことは、俺に
セントデルタという名の温室でヌクヌクと育ったお前らは知らんだろうが……俺はすでに、遠く離れた地に、楽園を築いている。そこに足りないのは、その楽園を
「ど……奴隷だと!?? ふざけるな!」
地黒男が
「ふざけてなんかないぜ。仲間たちのために、ここへ
まさか、ここのラストマンが破壊されているからという理由で、俺を善人とでも
なら、そこの門を開けといてくれ。仲間に、この道のことを教えて、お前らを狩るだけだ」
「俺達はラストマンと戦う
地黒男がすべて言い切る前に、ゴドラハンの手先から、大きな発砲音が
銃弾は、地黒男の右太ももを撃ち抜いていた……。
「ア……アァァァァーーーーーッッ!!」
本当に撃たれるとは考えなかったのだろう、地黒男はアメジストの剣を放り捨てて、その場に倒れ、転がり回った。
薄暗い中、黒ずんだ血と、それから鉄分を多く含んだ、あの
それが、一気に周囲の人々の危機感にスイッチを入れることになった。
「て、てめぇ、何てことしやがる!」
「ひどい!」
「ヤダ、ヤダーーーーっ!」
地黒男のうしろにいた人々が、口々に
それを見て、ゴドラハンの不敵な笑みは、さらにゆがんでいく。
「死にたい奴は前に来い。仲間への
ゴドラハンは別の人間の頭へ
するとロナリオはわずかに
「……くっ」
「逃げるよ! みんな! ここは
「そうそう、管理しやすいように、ちゃんとその中へこもってろよ」
ゴドラハンは
人々は
「セントデルタが混乱する今を狙うとは、やはりお前は
「クズ野郎め!」
それが、扉の閉まりきる直前につながった、ゴドラハンと人々との最後のコミュニケーションとなった。
そののち通路は再び、ゴドラハンと、ロナリオと……そして
「……」
人間の知恵、熱意。
打算や策謀のない、心からの愛情や友情。
ファノンやアエフに接したのと同じ態度をもってすれば、彼らセントデルタ人から、そういった、ゴドラハンが
だが、ゴドラハンには、そうすることはできなかったのである。
セントデルタの人々に「ラストマンは全て片付けた」と言ったが、それはウソだった。
まだラストマンは、何体もいる──
それを正直に話せば、もともとラストマンと戦う気でいたセントデルタ人のこと、必ず協力してくれただろう。
しかし、彼らでは戦力にならないのだ。
この狭い通路では、この人数での戦闘は不利だ。
ファノンが
ラストマンの正確な射撃を前にすれば、セントデルタ人は、あっという間に死体の山となるはずだ。
あるいは、そうして
それを防ぐため、ゴドラハンはセントデルタに書かれている、教科書通りの男を演じたのである……。
「あなたは、本当に
ゴドラハンの真意がわかるロナリオは、ただそう吐き尽くして
「彼らの
一種の満足感を
「何でしょう」
「先に言っとく。この人生、少しばかり伸びてしまったが、お前のおかげで、悪いものじゃなくなった。ありがとう」
「……」
「20年で死ぬ
「あなたはこれから……」
――ホロコースター・ラストマンと戦い、おそらく、何らかの方法で殺されるでしょう……。
などと、
そんなことを
「さて」
ゴドラハンは、
「今から、人間にとって一番難しい仕事をする。相手は、たった1機でも俺たちより強いラストマンだ。それを、この7、8メートル幅の通路で、全部撃退するって仕事だ。
この仕事が
「あなたは、天国に行けると確信しているのですか?」
「まあ……必ずしも清く正しく生きられたかはわからない。もしも地獄なら、そこで天国に向けて手紙を送るとするよ」
「では、わたしもそこへお
そんな言葉を交わす2人は、薄ぼんやりと月明かりの見える通路出口の方から、金属の足音が、いくつも近づきつつあるのに気付いて、そちらへ向けて、ライフルを構えていった──