「……道に
何度も、スマホの地図アプリを見直すが、いっこうに目的地が見つからず、ロナリオは同じ場所を何度も、行ったり来たりしていたのである。
姉夫婦がいる街で仕事が決まったので、早朝から
前を見てもうしろを見ても、アパートメント・ビルばかり。
これの内の、どれか1つを教えてもらったはずなのに、記憶にない。
電話で両親に場所を聞こうともしたのだが……仕事中なのか、どちらとも連絡が取れない。
不動産屋の名前など、もちろん覚えていないから、やはり対処を乞うこともできない。
そんな状況で、ロナリオが
「アッハハハハハハ……!」
建物の
「!?」
ロナリオはにわかに起こった出来事に
「あっ、ごめん!」
子供はすぐさま
その子供は、ロナリオの二の腕のあたりの身長しかなく、何とも落ち着きのなさそうな
「いえ、問題ありません……建物の角にはたいてい、あなたにぶつかるために人が隠れているものです。いい勉強になりましたね」
「うん!」
ロナリオのユーモラスな返答に、少年は元気に笑い返した。
「ファノン、おい」
と、その背後から、また別の人物が姿を見せてきた。
「お前、全力
その声の主は、中年男性のものだった。
男は
「俺、この人にぶつかったのに、
ファノンと呼ばれた少年が、なんとも雑な説明をする。
「ぶつかったのか、ファノン……ああ、どうも。息子への慰謝料を取り下げて頂いたとか……」
そこで男は、ロナリオの顔をじっと見て、しばらく静止した。
それはロナリオも同じで、わずかな間、2人は見つめ合う
反応をうかがう限り、男のほうもそうだったのかもしれない。
だがひとまず、その不思議な間を破ったのは、ロナリオの方だった。
「あの……お
そう言いながらロナリオが、スマホに写る、地図アプリを中年男の眼前にかざす。
「ん? このアパートメントなら、俺の家の近くだな。案内するから、ついてきなよ」
そう言うと中年男は、ロナリオの返事も待たずに、脇に置かれたキャリーケースの、サイドハンドルを引っ付かんで持ち上げた。
「気をつけて、おねーさん。このオッサン、
「おいファノン、
「良いから早く行こうぜ。俺、腹が減ったよ」
ファノンがそこでまた、減らず口をたれる。
「おなかがすいたのですか? えーと……ファノン?」
両手の空いたロナリオが、ファノンの目の高さにあわせてしゃがみこむ。
「うん! もしかして、料理とか作ってくれる流れか?」
「わたし、料理は苦手だから……みんなで、どこかで食事でも、と思ったのです。ついでに、この辺のお店を紹介してもらえれば」
ロナリオはそんな提案を口から
見知らぬ相手を食事に
「ああ、かまわないぜ」
中年男が、首だけ振り返って、大きく笑った。
「ところで、まだお名前をうかがっていませんでした。わたしはロナリオ・ホーリー・タリタ・クミ。あなたは?」
「俺はファノン! 見た目は子供、頭脳も子供だ! 特技は首のリボンから毒針を出して、人を
名前がすでに割れているにも関わらず、ファノンが胸を張った。
「俺はゴドラハン。見ての通り、親切なオッサンさ」
短くそう言って中年男──ゴドラハンは、2人に先んじるように、前を歩いていった。
「まあでも、ロナリオさん。近所ってこともあるし、もしかしたら付き合いも長くなるかもしれん。良い店を知ってるから、寄り道していきましょう。パスタはお好きですか?」
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