「やっと会えたね、ファノン」
クリルは
クリルの
「長い道のりだった。あなたにとっては一瞬だっただろうけどね」
クリルは片方の槍を地面に置くと、ファノンに向けて、アレキサンドライト・タイルの床の上に
重いダイヤモンドの槍は、やはり重そうにゆっくりと回転しながら、ファノンの足元へたどりつく。
ファノンはそれを
「クリル……俺は前世のことまで、全て思い出した。俺はその頃から、お前のことを知っていた。お前はずっと、俺を守ってくれてたんだな」
「まあね。
クリルは左耳にかかっている、アクアマリンの
かちゃんと音を立てて寝そべるそれは、補聴器というには、あまりにも
「それ……補聴器じゃなかったんだろ?」
「うん。これ、ホントはね……脳波でエノハを動かすためのものだったんだ」
「コントローラー……いや、ファンネル的なものか」
「その元ネタなら、わかるよ。あたしはニュータイプでも何でもないけどね」
クリルはくすっと笑いかけた。
それは、ファノンと日常を過ごすとき、
「てっきり、ノトの
「ばっちり死んでたよ。
「チェルノス……? ああ、タクマスの反乱をあっという間に
「うん。あなたに
クリルはファノンの数歩前まで進み出ながら、話を続ける。
「……旧代では、永遠の命だけじゃなく、あらゆる不可能、あらゆる
そういった技術の1つが死者の復活。そりゃそうだよね。永遠の命を達したら、次は死んだ人間を
旧代末期には実際、限定的ながら、死んだ人間の蘇生ができるようになっていた。あたしみたいに、死んだ直後なら、何とかなるレベルのね。
ただ、さすがにすぐには意識は戻らなかったから、しばらくエノハの脳波コントロールができなかった。それで、アレキサンドライトの塔に引き上げられたあたしだけど、そのへんはAIが代わりをしなきゃならなかった……AIはラストマンより古いシステムだったから、
「リッカから渡された新聞は、俺も見たよ……だけど、そんなことをしていた理由は、良くわからないな。お前は、
なぜ
「……そう考えることができたのは、4年くらいだったかな」
クリルは遠い目になって、ファノンの背から差してくる、アクアマリン窓の
「あたしも最初は、エノハになりきって、セントデルタの
でもね……この仕事はそもそも、フォーハードとの密約で産まれたもの。ここはあたしの理想の世界じゃあない。フォーハードの理想の世界だったの。たしかに、20歳で死ぬ運命を強いたのはあたしだけど、それ以外のことは、全部フォーハードの
「お前はしょっちゅう、人々の目の前で、『エノハ様』に直接、問題
「あー……あれね。7話『アポトーシス』とかで、あたしがエノハに喋ってたような話のことだね?」
「いちおう、ほぼ最終話なんだから、そういう
「ストーリーの
クリルはまったく悪びれた
「……あれは結局、セントデルタという世界に生まれたデメリットを語ってただけだったんだな。人間を20歳に閉じこめるのは、お前自身が生み出したものなのに、それさえ否定していたのは……つまり、お前はアポトーシスを、
「そうだよ……そのへんの結論になるのは、すぐだった。
だからセントデルタの運営を始めたら、さっそく
確かに、初めの頃のあたしは、人間の寿命が20歳ぐらいで尽きたほうが、人々は清く美しく生きられると信じていた。
でも、実際に人間の復活をおこない、20年の
仲良くなれば死に、親しくなれば死に、大切になっても
わかる? 何年
その人が、1人死んでいけば、起きていても寝ていても、
それでも、あなたが現れることだけを頼りに、何とか生きる望みを
500年前のあなたは死ぬ
街に出れば、寂しさを
……エターナルゲノムプロセッサは人間の身体を作り替えることもできるから、子供に戻ったりしながら、人々と関わり続けてきた。
フォーハードはあたしがそんなことをしてるのに気づいてたけど、本気になって止めはしなかった。特に止める理由もないと判断したんだろうね。
そして500年──やっとあなたは現れた。
役目を終えたような気がしたし……これから、本当に終わらせなきゃならない」
クリルは床から槍の
「フォーハードが死んだ今、セントデルタは旧代をなぞって動き出す。その時、あたしは存在してはいけない。あたしの身体には、旧代の
でもその前に、あなたに勝負を申し込むよ。あなたを殺してあたしも死ぬって話。
「聞いてもないのに、色々と説明してくれたもんだ。ラスボスに
ファノンもまた、
両者、まったく同じ構え方で向かい合い──しばらく時が止まったように、そこで静止した。