3年後、
「アエフ、ここにいたか」
ダイヤモンド中央広場『ジルコンの墓穴』に立つアエフの背に、19歳になったメイが話しかけた。
「あっ、メイさん……おはようございます」
アエフは振り返ると、少しばかり疲れた声で返事をした。
その声は、変声期の終わった、大人と同じものだった。
「会議まではまだ時間がある。少しは寝なくていいのか? 寝ずに働くとか、モエクに似てきたぞ」
「似てきた、なんてのは
アエフの成果報告。
3年前、フォーハードの
――この地球を救ったはずのファノンも。
それからアエフは、エノハのいなくなったアレキサンドライトの塔へ入って、ロストテクノロジーである『ヒトゲノム解読』のデータを探し出したのである。
目的は、人類の
幸い、エノハの塔にはそういう機材がそろっていた(もともとセントデルタ人を20歳の寿命に閉じ込めた場所なのだから、存在して当然だろう)。
そしてつい昨日、アエフは人間の変異したアポトーシス遺伝子の場所を特定したのである。
「これで人類は、もとの寿命を取り戻すことができる。すでにアポトーシス遺伝子を
「
メイがねぎらった。
「医者の勉強、やってて良かったです……」
アエフがそう返したところで、だった。
「アエフーーー」
「あえふー、あえふー」
アクアマリン通りのほうから、小さな女の子が2人、アエフを呼びながら駆けてきた。
「ポンポ、モエカ」
アエフが女の子たちの名前を呼び返した。
ポンポは、モンモの娘で今年で7歳になる。
そしてもう1人の3歳の子モエカは……モエクの
アエフは預かり親として、子供に慕われる人物になっていた(そしてさらに来年には、メイの指名を受けて、町長に
「すまないね、ポンポ、モエカ……心配させた。ご飯、すぐに作るから」
「アエフ、
「あたし、ジャガイモのかわ、むいた」
2人の女の子が、口々にアエフを
「そうか……ありがとう、な」
アエフはそれぞれの手でポンポとモエカの
「そういう訳ですので、メイさん。朝の会議には少し遅れます。朗報があるってことを自治会に伝えといてもらえれば」
「わかった。忙しいのにすまないな」
「じゃあ、また後で。行こう、ポンポ、モエカ」
そう言い残して、アエフはポンポ達とともに、アクアマリン通りへ帰っていった。
「……」
その背を見送るのもそこそこに、メイはひとり、かまくらのような姿で構える『ジルコンの
セントデルタ人が死んだ時、最後に向かう、地下水脈への穴を
「──なあファノン。お前の望んだ通り、世界は元に戻りつつある。これが……色んな人が、命を
メイは
「クリルさんの記録は、見事にリッカがすくい上げてた。塔の書庫を隅々まで探したが、このピンクの包みにあったものが全てだった。仕事をきっちりこなすってのは、あの人らしいよ」
メイはそうひとりごちると、紫の
そして重々しい宝石の蓋を、メイは
「やっちまった……こうするのに3年は
歴史ってのは
それを
メイは重いジルコンの蓋を閉め、鍵をかけると、
その日も、セントデルタの宝石
ジュエル・プリズムである。
「いったい、フォーハードの反乱からこの世界は、何が進歩したのだろう。失ったものだけはハッキリわかるのに、得たものは何なのか。おそらくそれは、誰も答えられない。
だが、世界はおそらく旧代をなぞることになる。その時フォーハードが再臨する世界になるかどうかは、その時代その時代の為政者にかかっているわけじゃあない。
だから人々は、自分の身に関わりのあること全てに、興味を持たなくてはならない。
夢を描くことは大切だ。目標を持つことは大事だ。だが、たいてい、夢や目標は利権を持つ者に利用される、ということを忘れてはならない。
ただ
必ず、他人に利用されないことにも注意を払う必要があるんだ。
それを達することを、独立と呼ぶ。どんな妨害にあってもそれを貫くことを、
人間世界はけっきょく、人間1人1人が作り上げるものだ。私達は、それを強く自覚しなければならない」
メイは空を見上げたまま、もしかしたらファノンがいそうな方向を夢想しながら、そちらへ語りかけた。
「──と、まあ……こんな言葉を、このあとのスピーチででも、未来に残そうと思うんだが……ファノン……お前なら、喜んでくれるだろ?」
その言葉に返事があるはずもなかったが、メイは