翌日の夕方、台所。
今日の料理当番のファノンがつくったのは、ダール豆やカルダモンを、数種のスパイスとともに煮込んだスープだった。
そのほか、土間のほうでゆるりと湯気をあげる土鍋には、煮込んだココナッツミルクに、挽いたコリアンダーとクミン、大きく角切りにしたジャガイモやホウレンソウ、それから、あらかじめ炒めておいた鶏肉が投入されたものが。
かつてインドという国にあった食べ物、コルマである。
ファノンが、ゆいいつ食べられる肉類が鳥肉。
そのファノンが料理当番になると、ヘルシー傾向の強いメニューになるのである。
誤解がないように追記すると、ファノンが当番の場合、いささかインド寄りな食生活になるというだけで、本来のセントデルタの料理は、さまざまな国の食べ物が調和したものだった。
「メイ!」
「あ?」
ダイニングテーブルで、肘をつきながら片手で本を読むメイが、いつも通りの、にべもない返事をした。
「そろそろセントデルタ感謝祭がくるから、なんか俺らも出し物やろうぜ」
コルマ鍋をテーブルの真ん中におきながら、ファノンは言った。
「やだ、目立ちたくない」
「そういうなよ、お前バイオリン得意じゃん、何かやろうぜ」
「バイオリンじゃない、ヴァイオリンだ、これだから音符の読めない奴は……」
メイははじめに置かれていた、テーブルの真ん中のダールスープをオタマですくい、自分の皿にうつすと、黒光沢をはなつトルマリン製のスプーンで飲んだ。
「……しかし、これはすごくうまいな。本当にうまい。全部食べるのがもったいないくらいだ……宝物を食べられるというのは、幸せだよ」
メイは
聞くほうは照れ臭くなるが、ファノンはいま、ほかに話したいことがあった。
「感謝祭で何かやって、人気者になりたいんだよ。そうだ、バンドやろうぜ」
「お前は何ができるんだ、楽器は」
メイが顔をしかめつつたずねた。
「口笛」
「……私はそんなバンドには付き合わんぞ、他を当たれ」
「わかった、クリル!!」
「んぁ……」
ソファに
「バンドやろうぜ」
「いいけど、あたし昼寝ぐらいしかできないよ」
クリルが寝ぼけた声で忠告するが、ファノンは満足げにうなずくだけだった。
「それでいい! 三人揃ったな」
「三人じゃたりなくない?」
「おい私はやらんぞ」
ふたりの会話にメイが水をさすが、ファノンはまったく聞いていない。
「あと一人は欲しいな、リッカはどうかな」
「あの子は無理でしょ。運営側らしいし」
「もう一人欲しかったんだけどなあ……まあメイがバイオリンできるってのはよかった。バンドできるな、これなら」
「ヴァだ。間違えるなゴミクズ。あと私はやらんといってるだろ」
「ヴァンドやろうぜメイ」
「そっちじゃねえよ」
「しょうがないな、誰か探してくる、特技のあるやつを」
「んー、がんばれー」
クリルは気に