その日、クリルが着ていた婚礼衣装も、セントデルタ民族衣装を膨らませ、
セントデルタにおいて宝石の価値は石ころと何ら変わりはないが、金や銀、プラチナといった貴金属は希少なために、装飾品としては好んで用いられた。
つまり、貴金属はセントデルタの礼装にはうってつけなわけだ。
ただクリル本人は、あまり
その本人評はともかく、もともとセントデルタでも色白なほうのクリルはこのとき、メイクもほどこされ、いっそうの
クリルは自室でその
「……ありがとファノン」
見送りに来ていたファノンに、クリルは独身者として最後のほほえみを向けた。
「あっちでも達者で。こうして毎日顔を合わすことが、できなくなるな」
ファノンも笑い返したが、こちらは
「料理は覚えろよ、もう俺もメイも手伝えない」
「うん」
「洗濯はモエクはするみたいだけど、甘えないように」
「うん……」
「掃除はマメに。生まれる子どもに、出したオモチャを片付けさせるには、まず自分が。言葉には説得力を持たせないと」
「……うん」
「あ、あと……モエクによろしく。あいつのこと知らないけど、クリルが見込んだ人間だ。お前の審美眼がはずれたことはない、信じ続けて」
「ありがとファノン――行ってくるね」
クリルはピンク色のルージュを引いた唇を短く動かしたのち、ファノンの横をすりぬけ、婚礼場である街の中心部へ進んでいった。
「……クリル……」
ファノンはつぶやいたが、小声すぎたためだろうか、もうクリルが振り返ることはなかった。
クリルは介添えの女性に手を引かれ、家の前に待たせる馬車にむかう。
そこにはセントデルタ民族の正装になって、これまでになく
「きれいだ、クリル」
モエクは顔色を変えずにつぶやいたが、顔には明らかに紅がさしていた。
「あなたは、もう少し太ったほうがいいわね」
「
「うん、期待してるから」
二人は見つめあうと、どちらからともなく唇を近づける。
ファノンはそれから目を
それなのに、なぜかまぶたの奥には、その景色が映る。
長い
だがその中で、二人の顔にみるみる、水ぶくれが湧き上がり始めた。
「!」
ファノンは異常に気づき、前のめって二人を見る。
「アポトーシスだ――クリル! モエク!」
ファノンはクリルたちの所へ走りだしたが……いくら全速力をかけても、くずれゆく二人の体に距離をつめることは、できなかった。
「クリル……クリルっ!!」