「なんたることだ!」
エノハはテラスを
「おのれ……してやられた! ゴドラハンに!」
「ファノンは、どこへ連れて行かれたんでしょう、エノハ様」
リッカは神妙な顔ではあるが、落ち着いた声でたずねた。
リッカも
ファノンをこのままセントデルタで生活させていいのだろうか……という疑念が、リッカに冷静さを与えていたのである。
もちろんファノンを暗殺すべきだなどとはリッカも思っていない。
だがリッカは、ファノンが誘拐される前から、セントデルタにファノンが居続けるべきか、それとも
その迷いのさなかでの、この拉致事件。
――だったら、ファノンがこのままいなくなっても、そんなにセントデルタは困らない……。
恥ずべきことだと自覚しているが、リッカはどうしても、そう考えてしまうのだ。
「それはわからん。自警団200を動員する。やつの逃げた方角を徹底的に洗い、めどがたち次第、私も出るぞ」
「団員のみんなに、武器を支給します。200人を選ぶとして、残りは村の防備に?」
リッカは黒い内心をおくびにも出さず、自警団長として理想の提案をした。
「それがよさそうだ。生き残ったヨイテッツの報告では、ツチグモだけでなくアジンまでここを
エノハは
この島国からは確かに、エノハが無人機をいちど、
なのに再び無人機が増殖しているとしたら、考えられることはひとつしかない。
フォーハードが空間を操る術をもちいて、ほかの大陸から無人機を運んできたのだ。
エノハ以上に、フォーハードがゴドラハンを倒したがっている。
アジンがあれだけ森を
少なくともひとつは、ファノンを追い詰めるべく、なんらかの策略につかうため。
そしておそらく、ゴドラハンを探すためにも、アジンをここに召喚していたのだろう。
「ファノンを、ゴドラハンと会わせてはならんのに……つまらんことをしてくれたな、フォーハード」
「? エノハ様?」
リッカが
「いや、すまん、なんでもない……ともかく、ファノンの足取りがつかめ次第、すぐにでも出立してくれ。私もこの塔の設備を使い、ここから望遠モードで捜索する」
「あの、エノハ様」
「なんだ」
とつぜん遠慮がちな声音に落ちたリッカに、エノハはすこし不機嫌に先をうながした。
「エノハ様……ゴドラハンは永遠の命を持ってはいますが、ただの人間でしょう? なら、あたしが
「そうだな……たしかにゴドラハンは、フォーハードほどの策士でもないし、私のように体を機械に改造しているわけでもない。だがそれでも、私やフォーハードが500年間ずっと、
「は、はい……すいません」
エノハに鋭く
「奴が生きていれば、あの
「はい……」
リッカはうなずいてみせたが、
――いまのエノハ様は、何かおかしい。フォーハードのほうがヤバい奴なはずなのに……ゴドラハンなんかにかまけてる。
――フォーハードのほうが危険なのは明らかなんだから、ほんらいエノハ様は、何が何でもセントデルタから出るわけにはいかないはずなのに……。
――エノハ様がフォーハードの動向に不安を示さないのは……不安にならずに済むだけの確信がある……?
――そしてその理由を、あたしたちに隠している……。
――いや、だったらドウだってのよ。
リッカはそこまで考えてから、その疑念を打ち消した。
エノハのこれまでの統治にはたしかに私心はなかったし、自分たちをだましてエノハだけが何らかのメリットをむさぼることは、一度もなかった。
だからリッカはその違和感に、あえて深入りしないことに決めたのである。