34.対話

「……俺のことは、ろくな奴じゃないと教わったんじゃないか? セントデルタの授業では」

 ゴドラハンがしたり顔で、ファノンの心内をすっぱ抜いた。

「……ああ、歴史上、最低最悪の倫理りんり観を持った男だと聞いてる。女をはべらせるために、エノハ様と敵対した人物」

「まあ、完全に否定はしないさ。俺だけの理想の世界があっても、悪いとは思わんからな」

「ホントは違う、と言いたげだな」

放蕩ほうとうは好きさ。サボるのも好きだし嘘も好きだし、酒も好きだし女も好きだ。それは間違ってない。だがそれに他人の涙が入ることなら謝絶すべきだね。自由とワガママの違いは、他人に迷惑をかけるか、かけないかの違いだよ」

「つまり、セントデルタ教科書みたいなことは主張してない、と言いたいんだな。信じる理由がないよ。俺は……俺たちセントデルタの人間はずっと、お前が悪意で世界をたばねようとしていた、と教わった」

「Aの話を先に聞いた、ゆえにあとで聞いたBの話は間違っている、と。お前の真実とは、聞いた順番だけで決まるのか?」

「む……」

「まあいいさ、俺はエノハの世界を否定する話を聞いてもらうために、お前をさらったんじゃあない。俺の潔白けっぱくを訴えるためでもない。俺の言葉を信じなくてもいい。フォーハードを倒してもらいたい。それだけだ」

「倒せるものなら倒すよ。あいつ意地悪すぎだし。だけど、なんであいつを倒したいんだ。それにさっき、セントデルタを破壊してほしいと言ってたろ。セントデルタの破壊をするのにフォーハードは関係ないし、どっちかというと、フォーハードがセントデルタを破壊しようとしてるじゃないか。あいつに頼めばどうだ」

「あいつじゃダメだ。他のものも破壊する気でいるからな。あの男がいるかぎり、人間世界が停滞するか、地球が破滅するか、どちらかしかない」

「停滞とは、エノハ様のやってる統治のことだろ。エノハ様はそうやって理想の世界を守ろうとしてる」

「ん……そういうふうに、セントデルタでは教わっているのか?」

「いや、俺の好……知ってる人間が言ってた言葉の受け売りだ。なんだ、それも嘘だと言いたいのか」

「エノハとフォーハードは、切っても切れない結びつきがあるのさ」

 ゴドラハンは湯呑みをあおってから、さらに語った。

「なぜなら――お前らが奉じるセントデルタを作ったのは、ほかならぬ、水爆の男フォーハードだからだ」

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