アレキサンドライトの塔、最上階。
リッカを塔から帰らせて、少しして。
それまでエノハ以外に誰もいなかったはずのソファに、いつの間にかフォーハードが腰を沈め、背を向けるエノハに、不敵に笑いかけていた。
「バラしただろうな、ゴドラハンの奴。この500年の秘密を」
フォーハードはソファにもたれかかって無作法にテーブルに両脚を投げ出し、聞かれてもいない自身の予想を披露した。
「伝えられてはいけない人物に、適切に伝えてくれた。ファノンはもう、疑心なくセントデルタで暮らすことができなくなってしまった……」
「まだファノンの平穏な暮らしを望んでいたのか。肩入れしすぎじゃないのか? 奴はたしかに、あいつとソックリだものな」
「……元はと言えば、お前がセントデルタ外に、私に断りなくアジンなど配置するからだ」
「ゴドラハンを探してたんだからしょうがないだろう? 奴は俺の動きに気づいていた。どこかに
「……お前なら、ファノンの居場所がわかるのだろう? 超常の力を持つもの同士、感じるものがあるはずだ」
「ある程度、距離が近くないとわからんな。それ以外だと……ファノンが力を振るった時。それしかない」
「お前を買いかぶっていたよ」
「心配するな。ファノンの超弦の力を
「アジンをセントデルタの周囲にばらまいたのは、ゴドラハンを探すためだ、と今言っていたと思うが?」
「おっと、失言」
フォーハードはわざとらしく笑った。
「あれだけの数を
「私が大量破壊兵器を利用するとはな。セントデルタの人々が聞けば、幻滅するだろう」
「俺がお前と
「本気で、そうおもっているのか」
「もちろんさ」
「ノトに妙な接触を図っていた、と感じたのだが?」
「彼を
「……」
エノハは答えず、ただ
「お前は、賢明だよ」
フォーハードは立ち上がると、きびすを返した。
「どこへ行く」
「アジンどもに命令を出したあとは、そのアジンどもがファノンやゴドラハンを見つけるまで、俺には鋭気を養うぐらいしかやることがないのさ。俺はいちおう、
「フォーハード」
「なんだ」
エノハに呼び止められたフォーハードは、背を向けたまま返事した。
「……正直に話せ。ファノンに、何をするつもりだ」
「俺とお前の力量ははっきりしている。俺の
「あれまで出しているのか……このセントデルタに」
「話せるのはそこまでだ。お前がセントデルタを未来永劫の理想郷にしたい、というなら、それ以上、踏み込まないことだ」
フォーハードは振り返ると、念を押すように、エノハに人差し指を突きつけながら、その場から姿を薄れさせていった。