35.癒着

 アレキサンドライトの塔、最上階。

 リッカを塔から帰らせて、少しして。

 それまでエノハ以外に誰もいなかったはずのソファに、いつの間にかフォーハードが腰を沈め、背を向けるエノハに、不敵に笑いかけていた。

「バラしただろうな、ゴドラハンの奴。この500年の秘密を」

 フォーハードはソファにもたれかかって無作法にテーブルに両脚を投げ出し、聞かれてもいない自身の予想を披露した。

「伝えられてはいけない人物に、適切に伝えてくれた。ファノンはもう、疑心なくセントデルタで暮らすことができなくなってしまった……」

「まだファノンの平穏な暮らしを望んでいたのか。肩入れしすぎじゃないのか? 奴はたしかに、あいつとソックリだものな」

「……元はと言えば、お前がセントデルタ外に、私に断りなくアジンなど配置するからだ」

「ゴドラハンを探してたんだからしょうがないだろう? 奴は俺の動きに気づいていた。どこかに尻尾しっぽが出ていたはずだからな」

「……お前なら、ファノンの居場所がわかるのだろう? 超常の力を持つもの同士、感じるものがあるはずだ」

「ある程度、距離が近くないとわからんな。それ以外だと……ファノンが力を振るった時。それしかない」

「お前を買いかぶっていたよ」

「心配するな。ファノンの超弦の力をあおるために、他大陸からワープさせた5000体のアジンども……あいつらに捜索そうさくさせよう」

「アジンをセントデルタの周囲にばらまいたのは、ゴドラハンを探すためだ、と今言っていたと思うが?」

「おっと、失言」

 フォーハードはわざとらしく笑った。

「あれだけの数をそろえれば見つけられるだろうし、そしてあいつらに襲わせれば、ファノンにその力を使わせることができるだろうさ」

「私が大量破壊兵器を利用するとはな。セントデルタの人々が聞けば、幻滅するだろう」

「俺がお前と結託けったくしていることはファノンの知るところになったろうが、まだお前には崇拝すうはいの対象でいてもらわなくてはならん。協力は惜しまん気だよ」

「本気で、そうおもっているのか」

「もちろんさ」

「ノトに妙な接触を図っていた、と感じたのだが?」

「彼をはげましていただけさ。それとも、ファノンを魔王にするための仕込みでもしていたか、とでも言うつもりか? そして、俺が『そうだ』と答えたら、お前はどうする気だ? もちろん、俺を倒せるんだよな」

「……」

 エノハは答えず、ただ苦悶くもんの表情を浮かべた。

「お前は、賢明だよ」

 フォーハードは立ち上がると、きびすを返した。

「どこへ行く」

「アジンどもに命令を出したあとは、そのアジンどもがファノンやゴドラハンを見つけるまで、俺には鋭気を養うぐらいしかやることがないのさ。俺はいちおう、怪我けが人なんだぜ」

「フォーハード」

「なんだ」

 エノハに呼び止められたフォーハードは、背を向けたまま返事した。

「……正直に話せ。ファノンに、何をするつもりだ」

「俺とお前の力量ははっきりしている。俺の機嫌きげんをそこねれば、いますぐセントデルタを終わらせることもできるんだぜ。そもそもこの島国に呼んでいるのは、取り回しの悪いツチグモや、水素電池で動く家電製品にすぎないアジンだけじゃあない」

「あれまで出しているのか……このセントデルタに」

「話せるのはそこまでだ。お前がセントデルタを未来永劫の理想郷にしたい、というなら、それ以上、踏み込まないことだ」

 フォーハードは振り返ると、念を押すように、エノハに人差し指を突きつけながら、その場から姿を薄れさせていった。

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