43.運命の戦い

「――ゴドラハンと、ファノンを見つけたぞ」

 フォーハードはアレキサンドライトの塔の最上階にワープしてくるや、テラスから地上を見下ろすエノハの背中に、開口一番かいこういちばんそう告げた。

「……本当か?」

「すべてのアンドロイドどもに、通信機能があるのは知っているだろう? 奴らからの報告さ」

 フォーハードはテラスに立つエノハに並ぶと、長袖の下に隠れていた左手首の腕時計を見せびらかした。

 その時計のあるべき部分には時刻表示のための短針や長針はなく、代わりに交戦中のゴドラハンの映像が見てとれた。

「場所もわかるのだな?」

「とうぜんだ、すぐに行ってゴドラハンの息の根を止める」

「ファノンの保護が優先だ。フォーハードは来なくていい。それに、お前が現れればファノンにゴドラハンの話を裏打ちすることになる。ファノンは無垢むくだ。ゴドラハンさえ殺せば、いくらでも嘘で言いくるめられる」

「バカにされたもんだな、あいつも」

「ファノンのことか? あの子は素直なだけだよ」

「それもそうだが、ゴドラハンもだよ。まだあいつを、レーザーだけで殺せると思ってるらしい。あいつは俺が相手じゃないと策を使わない。俺以外には普通のオッサンになるのさ。だからこそ、あいつの言葉は多くの人々に突き刺さる。ゴドラハンがたくさんの人間をたばねたのも、あいつのそういう性分しょうぶん賜物たまものだよ。あいつを敵にする場合、誰を何人、どれをどうやってけしかけられるかよりも、誰が味方につかないかを考えるべきだな」

「えらくゴドラハンを買っているな」

「俺の最後のライバルだからな」

「最後とは、吹いたものだ。ファノンがその向こうに立ちふさがるかもしれんぞ?」

「あいつとは相手にならんよ。俺のほうがな。あいつは宇宙すべての物質に、一度に作用することができるんだ。そんな奴にかなうわけがない」

「殺すチャンスはあったはずだ。ツチグモに備わっていた、あれを使えば簡単に、な」

「たしかに、あれを使えばファノンを殺すことはできるさ。だが、それをすると、お前はこのセントデルタの統治への気力がそがれるだろう? だからやらないのさ」

「……セントデルタのことを思慮しているふりは、もうしなくてもいいのだぞ?」

「いいや、するね。そのほうが俺の利益になるんだから」

「……ならば、私と来なければいい」

「行かない理由がないし、その条件を飲む義理もない。あいつを教育しなくちゃならんからな……ん? いや、待てよ……」

 喋りかけて、フォーハードはあごに指をそえて、言葉を続けた。

「やはり、俺は行かないことにしよう」

「どういう風の吹きまわしだ。悪い予感しかせん」

「用事を思い出したのさ。寄り道をしなくちゃならなくなったから、ファノンたちの所へ行くのはお前だけだ」

「来ないのか……? ゴドラハンはライバルだと、今も語っていたのに」

「ゴドラハンなんぞ、お前にくれてやる」

 フォーハードはエノハに言い返す暇を与えることもなく、手のひらをエノハにかざし、その内から黒く小さな銀河のような物質をともらせた。

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