48.激昂

理想の世界

「やめろ!」

 ファノンが傷だらけの身体のまま、叫びながら立ち上がった。

「お? ファノン、超弦の力が取りもどされているのが感じられるぞ。やはり2日やそこらしか顔を合わせなかった500歳のオッサンがいたぶられる様を見るより、付き合いの長い人間が苦しむほうが、頭に血が上りやすい」

 フォーハードはまるで子供の成長を見守るような表情を示しながらファノンをながめた。

「フォーハード! 今すぐアジンを引かせろ!」

 いつもハスキー気味な声のファノンが、自分でも驚くほど声を低く震わせて、フォーハードを恫喝どうかつした。

 だが、90億の人間からこういう声を浴びせられ続けてきたフォーハードにとって、そういう口調で話されるのは日常茶飯事さはんじだったから、さして驚きも怖がりもしなかった。

「やだね」

 フォーハードはファノンの重い要求を、まるで何かの宗教勧誘を断るかのように、にべもなく、軽くすりぬけた。

 そのとたん、空気に変化が起こった。

 ファノンの髪の毛はわずかに逆立さかだち、その右手に、景色の揺らぎが生じていた。

 ファノンはその右手をぐように横に振ると、フォーハードの左手の上でただよう、クリルたちの危機がうつる映像の中のアジンたちが、みるみる消えていった――

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