51.離脱

 たける炎の柱が、土に破れ目を走らせて、地面にいるアジンたちを次々に焼き払っていく。

 ここらで見える景色は、土と問わず肉と問わず岩と問わず、生物も無生物も、ほとんどが同じように、一瞬にして火にくるまれたのである。

 すべては、ロナリオの押した、ダイナマイト起爆ボタンを発端ほったんとして。

 その、にわかに夕日のような明かりに染まった森を、上空からフォーハードと、その手にぶらさがる形で、エノハが見下ろしていた。

「してやられた。さすがゴドラハンだ」

「用意周到しゅうとうなことだ。ゴドラハンの奴は危機になれば、いつでもこれができたということだ。また、お前は裏をかかれたのだな」

 先ほどまでフォーハードに置いてけぼりを食らっていたエノハが、皮肉まじりにつぶやいた。

「助けにきてやったんだ。そこは感謝の言葉だろう?」

 フォーハードは落下を続けながら、地面を観察した。

 地下は坑道だったのか空洞だったのかはフォーハードにはわからないが、爆発とともに岩盤は森ごと沈下し、どこがどこだったか、見分けがつかなくなっていた。

「周囲2キロ四方ってところか。ゴドラハンのやつ、TNT爆薬を何千キログラムも埋めていたようだ。加えて地下を掘って穴だらけにしていたから、盛大に崩れたんだな」

 フォーハードはそこまで述べたところで、わずかに沈黙をはじめた。

 そのとたん、エノハの見る景色がにわかに、揺らぎ始める。

 そう思ったのもつかのま、フォーハードとエノハは、先ほどまで自分たちが見下ろしていた、ゴドラハンが掘った坑道の中へと転移していた。

 フォーハードが、次元ワープの術を使ったのである。

「ゴドラハンの奴……まさかこれで俺たちを片付けられる、と考えているとは思えん」

 フォーハードがひとりごちながら、ファノンによって曇天の中に穿うがたれた夜空の星々を見上げた。

「奴は生きている。あまり観察する時間はなかったが、奴の周辺だけ爆薬が少なかったふうに思う。どこに、どの程度の爆薬が仕掛けてあるかは、すべて奴の頭の中だけ、というわけだ。せっかく中国から持ってきたアジンを、ぜんぶ壊してくれたよ」

「……ならば追わぬほうがいい。この坑道もゴドラハンの罠だらけ、ということだ」

 エノハがフォーハードの手首から手を離すと、不機嫌に助言した。

「そうだな。いくら超能力があろうと、俺は不死身じゃあない。ここらで逃げるとしよう……それに、やりたかった段取りはつけたしな」

「やはり、ファノンを目覚めさせたか。フォーハード……私があの場にいない間に、仕込みをしたことはわかっている。ハッキリ言えばどうだ。もはや、セントデルタを守る気がない、と」

「いいや? お前が約束さえ守れば、俺はこれからもセントデルタの守護神になる気だぜ」

 フォーハードは真顔で、ウソをついた。

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