翌日の昼、喫茶店『ギフケン』。
クリル、ゴンゲン、それにモンモが、喫茶店の丸テーブルで、おのおのが黙りこんで見つめ合っていた。
黙りこんでいるのは、ひとえに、ここに座る人物のひとり、ゴンゲンの気持ちを推し量ってのためだった。
ゴンゲンにとって、長年の友人が闇に帰った。
クリルの提案で開かれた『18歳会議』だったが、ゴンゲンの加減のために、しばらくは誰も話すタイミングを見つけられずにいたのである。
だが、このままではラチがあかないと、起草者クリルが口を開くことを決めた。
「モエクは……来ないって?」
クリルが真横のモンモにたずねた。
「うん……なんだか、すごく重要なことがあるんだ、とか言って、ヨイテッツの葬儀が終わったらすぐに帰ってったよ。なんだか重いものを持ったとかどうとかで、腰をさすりながらだったけど」
「あいつのことだし、並々ならない理由なんでしょ。あいつは物事の理非はわかる奴だし、幼馴染のゴンゲンがこんな風なのを、放っておける奴じゃないもん」
クリルはそうつぶやいてから、モンモと同時に丸テーブルの一部分を注目した。
そこには、赤く目を腫らしたゴンゲンが、それでも武神のように腕を組んで、背筋をまっすぐにしたまま腰掛けていた。
しばらく銅像のように、微動だにしなかったゴンゲンだったが、注目に気づいたからなのか、少しずつ語り始めた。
「――ヨイテッツとは、子供の頃からずっと一緒だった」
悲しげなほど理知的な、深く沈んだ声だった。
努力、努力とうるさかったゴンゲンから、それを取り払うと、クリルたちからは別人にしか見えなかった。
「生まれた家は違えど、血は同じでなくとも、主義を異にすれど、奴とはまるで頭の中が繋がったかのように、わかりあっていたと思う。
それに、俺たちの預かり親は同じだった。子供の頃は兄弟のように過ごしたよ。
昔、台所の菓子を自分だけくすねたのがバレたときがあったが、そのときヨイテッツに、吐け吐けと言われて腹をしこたま殴られて、逆流させられたよ。クッキーだった。
あのあとあいつ、本当に俺の吐いたクッキーを食べて、けっきょく吐き戻していたな。
俺はそんなあいつのゲロシーンに催して、もう一度吐いた。
そんな時に預かり親も帰ってきて、その惨状と匂いにやられて、やっぱり吐いていた。
俺とヨイテッツは、床にゲロを撒き散らかす親を見て、自分たちがゲロまみれにした床を見て、ケンカしていたことも忘れて肩を組んで笑ったよ。そのあと親にはボコボコにされたがな」
ヨイテッツの話は、とつとつと、続いていく。
「預かり親が窓職人だったから、俺たちはすぐにそれを手伝うようになった。
そこからは競争だった。
あいつが上手を行けば、俺もその上を狙い、そうなると、こんどはあいつが……というふうに。
……あいつが生きていれば、今この時間も、窓のことばかり考えていただろうな」
「ゴンゲン親方……」
モンモが目に涙をためて、ゴンゲンを見守っていた。
「ああ、いかんな、こんなんじゃ。ヨイテッツが安心できない。安心して闇にたゆたってもらわないと、いけないんだがな」
ゴンゲンはそこで、みずからの両目を、片腕でぬぐって、また語り出した。
「あいつの遺言は聞けなかったが、あいつのやろうとしたことは明らかだ。ファノンを守る。俺は、それを受け継ぐつもりだ」
その言葉に、クリルとモンモは黙ってうなずいた。