「……というのが、わたしのオリジナルである、ロナリオ・スーリーの日記からプログラムされた記憶の内容です。フォーハード攻略の糸口になりそうですか?」
(機械のほうの)ロナリオが空室のベッドに布団をかぶって横たわり、首だけをモエクに向けて話した。
あのとき、ロナリオにとってモエクとの接触は、まさにギャンブルだった。
あのまま屋根の上に寝そべっていたら、ロナリオは確実にエノハに見つかり、処分されていただろう。
だからけっきょくのところ、体を転がして屋根から飛び降り、第一発見者を
「いや……君の話にひたすら驚いてるところで、今はそれどころじゃない」
モエクは頭痛でもわずらっているかのように、頭をかかえた。
「なぜです?」
「だって君、今の話にでてきたロナリオは、人間の……つまり、君とは別人の話だろう。それも、日記の内容から再現した記憶だなんてね……本人の許可は取ってあるのかい?」
「私が起動される前に、当人は亡くなっておりますから、話したことはありません。あちらは私が製造される段階で私のことを知っていたようですから、問題ないと思っています。私が起動すれば、オリジナルの記憶を入力されることは、わかっていたはずですから」
「ああ、そうかい……でも僕は、いくら当人が許容しようと、人のプライバシーには踏み込むなって親に教わってきたからね。気味のよくない話だよ。
まあ、君がロボットだというのは認めよう。他には、何かできることはあるのかい。
さっき、助ける前に言った話だが、僕はエノハを倒したいんだ。それに役立つ方法があるなら、教えて欲しい」
「役立てるなら、なんでもします。ですが、私の主人であるゴドラハンでも、それを叶えたことがありません」
「……彼が生きていたということも驚きだ。だが僕は彼と違って、エノハの懐たるセントデルタに住むという有利性を持っている。ナイフを使えば届く距離にね。
エノハをセントデルタ外に誘い込む作戦しか立てられなかった彼とは、違うアプローチができると思うよ」
「心強い限りですが……今はまだ、エノハを倒す時ではありません。フォーハードはエノハと密約を交わしていますが、それはけっして熱い友情や愛情の差し挟まれているものではありません。
エノハも、隙さえあればフォーハードを亡き者にしたいのです。この状況は利用するべきですので、まだエノハには手を出すべきではないでしょう」
「ああ……中央広場を占拠していたのは、なんでもフォーハードだったらしいな。たしかに彼を相手にするなら、神の力をあてにしたいね。
――だがフォーハード打倒の話となれば、おのずとあの男にも、声をかけなくてはならないな」
「あの男……ファノン、ですか」
「彼の力は日に日に強くなっている。彼を巻き込むのは不本意だが、フォーハードも反則レベルの力を持っているからね。対抗するには、彼しかいないだろう。
君も、初めからその気なんだろう? 君の知識がファノンに与えられれば、きっと、今までできなかったことができるはずさ。
待っていてくれ。折を見て、君と彼を引き合わせよう」