――何が、あたしを
――今すぐ町長やクリルに泣きを入れて、拘置所に返してもらうんよ、リッカ。
――あんたの仕事はこんな血生臭いもんじゃぁない。あんたは心も体も看護師だよ。
――今すぐ、引き返すんよ。
「クリルの言葉を信じるとしたら、やっぱり敵の狙いはアレキサンドライトの塔だね」
リッカはエメラルド・ペリドット通りの裏路地を『看護師のように』早足で進みながら、横並びのクリルに改めて確認をとった。
裏路地を選んで進むのは、暴徒たちから隠れるためだ。
「たぶんね。違っていたら、それはそれで対処しやすくなるから、大丈夫」
クリルは道をまっすぐ見据えたまま、やや早口で答えた。
「あんたが言うんなら、信じるよ」
そう言ってリッカは、エメラルドの槍を握りしめながら、
「モンモ……あんたも来るの? メイや町長と帰ると思ってたのに」
「ん?」
リッカの問いに、モンモはむしろその質問こそ意外だとばかりに、眉をあげた。
メイと町長は拘置所の前で別れていた。
町長は、リッカたちが
メイはリッカ達に付いて行きたがったが、クリルに追い返されたのである。
メイはたしかにファノンよりは強いが、それでも、この戦いには不安要素が強すぎた。
それでもメイは食い下がろうとしたのだが、けっきょく、クリルの「あたしたちより、ファノンやゴンゲンを助けてあげて」というのが殺し文句となって、メイを巻き込まなくて済むことに成功したのである。
「泣き虫リッカがどこまで強くなったか、見届けてあげようってワケよ」
軽口をたたくモンモは、ルビーの中剣を腰にさげて武装していた。
モンモは傍目にはオットリ美人にしか見えないが、実のところ、剣の腕前だけならリッカより覚えがある(槍や弓はリッカに遠く及ばないが)。
モンモがそれほどの使い手なのは……クリルを泣かすために、頑張ったからだ。
だからこそクリルとリッカは、モンモの
「じゃあ、行くよ」
リッカは改めて二人に告げ、そびえる神の塔へ向けて、強い歩調で歩き出した。