82.外説・理想の世界(9)

「待って……街の様子が、おかしい」

 エメラルド・ペリドット通りの裏路地を忍びながら、クリルやモンモのあとに続いてアレキサンドライトの塔を目指していたリッカが、ふと、うしろを振り向いた。

「おかしいって……どういうこと?」

 モンモもまた、リッカの見るほうを視線でたどるが、そこにはグリーントルマリンの家壁しか、写りはしなかった。

「耳を澄ましてみんさいよ。街の……ここから割と近く。みんなの声が聞こえる」

「当然でしょ。あなたをボコりにきてるんだから」

 先頭にいたクリルが行軍をやめ、呆れたようにリッカに説明する。

「違うんよ、そうじゃないんよ。なんだろ……すごく例えにくいんだけど、違う気がする」

「違っててもいいじゃない。エノハの暗殺さえ防げば、そっちはあとでいくらでも確認できるよ」

「声とかが……あたしを探してるようなもんじゃないんよ。なんか……助けを求めてる気がする」

「助けを……?」

 モンモがリッカの言葉をたどってからクリルに目配せすると、クリルのほうは神妙しんみょう文な顔でうなずいた。

「あたしとモンモで、様子を見てくる。リッカは先にアレキサンドライトの塔へ行ってて。すぐに追いつくから」

「ん……うん」

 リッカは何か不服そうな表情を一瞬だけ見せたが、すぐに首を縦に振った。

「じゃあ行こ、モンモ」

「命令しないでクリル。私は私の意思で、そこに向かうの」

 クリルの言葉に、モンモはあごをしゃくってから、先に歩き出した。

「ハイハイ……それでいいから」

 クリルも、そのモンモに従うような体裁で、大通りのほうへ向かっていった。

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