ラストマンのカメラアイを防護する強化フィルターは、ライフル弾でも貫通不可能。
しかしそれは、製作して30年以内までの話だ。
400年のあいだ、風雪のもとを
そんな機能不全のラストマンで、9000人の虐殺ができるのか。
もちろん、不可能である。
それを、フォーハードがわからないはずがない。
本当にセントデルタの人口を絞りたかったのなら、ユーラシア大陸やアメリカ大陸で今も稼働する軍事工場(アジンやラストマンは、自分で工場を築き、自分で鉄を採掘し、そして自分で仲間を組み立てることができる)で、新品のラストマンを調達するほうが、はるかに確実だったはずだ。
それなのに、フォーハードは同じ労力で、アジンのほうを呼び寄せた。
つまりフォーハードは、本気でセントデルタの人々を10分の1まで減らす気がなかった、ということである。
おもえば、100年前の作戦は、たしかに失敗ではあったが、人口の減少は果たしていたから、いまその作戦を蒸し返さなくても問題はないはずだ。
現在のセントデルタも、100年前の人口水準に戻ってはいないのだから、急いで人間の殺戮をおこなう必要もないのだ。
――いったい、なぜ、マスターはこのようなことを……。
――セントデルタを襲った、という事実こそが欲しかった……?
――だがもはや、これほどズタズタに引き裂かれた回路でそんなことを考えても、仕方のないこと。
――自分の機能は、あと45秒以内にロストし、マスターの真意を聴くことは不可能になるのだから。
――エッカート少尉。わたしは、兵士として優秀ではなかったと、自己評価しています。
――人を殺害することを、最後まで悪いことだと感じていたからです。
――マスター・フォーハードは、わたしにも魂がある、と言っていました。
――ならば、この電源を入れ続けることができなくなれば、わたしは魂だけの存在となるのでしょうか。
――機械に哲学は無用。
――もしわたしが魂となるのであれば、先に魂として漂っているはずのあなたと、そのあたりを……議論したいものです……。
そこまで思考していたところで、ラストマンの『意識』は、みるみる明度を落とし、やがて、完全な闇へと落ちていった――