「メイ、結婚してくれ」
翌日の夕方、喫茶店『ギフケン』にて。
モエクはとくに感情のこもっていない声色で、向かいのメイに告白した。
「……すっかり
火の灯ったルビーの
「3日前に、ヨイテッツが死んだのを
「まともな知り合いが私しかいないから、こんなヘタクソなアプローチをしてるってわけじゃないよな……?」
「僕の人脈の乏しさは、おそらくセントデルタで一番だろうな。人と会わずに勉学ばかりやっていたツケがきたよ。この世とは結局、何かを手に入れれば、何かを捨てなくちゃならないんだ。僕の場合は、知識のために人脈を捨てたってところかな」
「ようは知識を選んで、コミュ力を捨てたってことだろう? あんたのモテないオーラ、半端じゃないぞ」
「その言葉は……お前さんのオンナゴコロが導き出したのかい?」
「知らねぇよ、その天才的な頭とやらで考えろ」
メイが憤慨まじりに言ったところで、喫茶店の入り口ドアの、オパールの呼び鈴がコロンコロンと音をたてた。
クリルと、モンモだった。
ただし二人の顔は赤らんでおり、その目もうつろだった。
二人は、酒に酔っていたのである。
「クリルさん……それにモンモさんまで」
メイは両者の登場に眉を上げた。
2人の普段の会話だけを知っている人間ならば、この2人の仲は最悪なのだと勘違いするだろう。
だが少しくクリルとモンモを知れば、しょっちゅうこの2人が一緒にいるのに気づくはずだ。
――けっきょく、本当は仲がいいんだろうな、この2人。
「んっふ~、ゴンゲン親方と酒盛りしてたとこお。あいつ、あんなに筋肉デヴなのに、あたしたチより酒に弱いんでやんのぉ」
「やんのぉ~~」
クリルのろれつの回らない説明に、モンモが言葉を合わせたところで、2人は大声で笑いだした。
「それでねソレでね? ゴンヘンが家に帰って寝ちゃったから、あたしたちは飲みなおそっっってんで、ここに来たらぁ~~」
モンモは入り口でヤケクソ気味に話しながら、メイたちの丸テーブルにあいた、二つの席に
「あんたたちがナンカ、むっつかしそうな顔で液体窒素を飲んでんじゃん」
「おばちゃーん! あたしにウォッカ!」
「私はぁ……かぼすリキュールねーー! ソーダで割ってね!」
二人は上機嫌で、木製カウンターの向こうで、
「クリルさん……モンモさん……」
「ン……わぁってる。今回のヨイテッツの件で、いちばんヘコんでる奴がいたかぁね。ツブすしか、助ける方法が思いつかラかったのよ」
「わらしは、それに付き合わされたクチらけどね」
「でもあんた、一番ムリしてテンション上げてたじゃん。わざと
そう告げてから、クリルはモンモの首に手をやって、ワシワシと頭を
「触んなハゲー、触んなハゲー」
モンモは愉快そうに抗議しながら、クリルにされるに任せていた。
そうやりとりするクリル達のもとに、うしろからやってきた女店主から、二つのカップが置かれてきた。
暖かい湯気をたゆたわせる、カフェオレだった。
「ちょっと、マスター……頼んだものと違うんだけど」
モンモが
「ゴンゲン親方のことが済んだんなら、あんたらも無理することはないだろ? そっちにしときな」
店主はオパールのトレーを回しながら、座るクリルをねんごろな口調でいさめた。
「ん……ありがと」
クリルが慎ましげにうなずくと、カップの取っ手をつまんで、少しだけそれをあおった。
「あー……クリル、それにモンモ……文明崩壊前に言われていたことだが……ヤケ酒では悲しい記憶を消すどころか、固着させると言われていたそうだぞ」
「仮説でしょ? それ。飲みたくなったんだから、仕方ないじゃん」
「モエクっったら、淡々としすぎィ。ヨイテッツとの付き合い、あなたも長かったでしょ」
クリルとモンモが次々に、タイミングも構わずにしゃべりだす。
「たしかにヨイテッツとも、お前さん達とも同い年だが……なにぶん彼のニュースを聞いたのが小学生以来のことだからね。距離を置いて考えてしまうのは、許してほしい」
「いんや、許さん! お詫びに酒飲みなさい!」
「……いま、お前さん達には
「うん……そうだね。同感だよ」
モンモがにわかに、
その3人の会話を黙って聞いていたメイも、それにはうつむいた。
――私たちにしか、できないこと。
モエクのたしなめで、ようやくメイはいま、指名されながらも
だが、メイのその思案は、まだまだ結果を表すのに、時間が必要だった――