93.出会い

 ファノンとクリルが初めて会ったのは、ファノンが10歳の時。

 その日は、やはり今日のように、霧雨きりさめが降りしきっており、昼間なのに薄暗かった。

 ファノンはほのかな心細さをまといながら、玄関前のアプローチの石畳に立って見守るエノハと、自警団長の男を見やってから、ふたたび正面を見えた。

 そこにはクリルと、その背に隠れて、じっとファノンをにらむメイもいた。

「ようこそ、天使さん」

 クリルは今と変わらない、優しい声音で話しかけた。

「あたしはクリル。こっちのは、あなたと同い年のメイ。あたしのことは、お姉ちゃんと呼んでいいからね」

「……」

「ん……? あたしの顔に、何かついてる?」

「いや……おっぱい大きいなと思って」

「ふぅん……」

 クリルはファノンの口に両手をつかんだ。

 と思うや、クリルは力一杯、思い切りその口を広げた。

「いひゃい! いひゃいよ! ――いひゃいっつってんだろ、胸デブ!」

「どういう形に口を変えたら、まともな事を喋るようになるのかしら」

「エ、エノハさまふぁっ! 助けて! こいつ乱暴すぎっ!」

「初対面の人に向けて、『こいつ』とは、いい根性してるね。どのへんまで裂けば言わなくなるかな」

「フヒィーーーっ!」

 ファノンの絶叫が、ルビー・ガーネット通りに響くから、周囲に住む人々も、なんだなんだと思いながら、この家をのぞきにきた。

 そこで繰り広げられる茶番に気づくと、心配でやってきていた人々も安心して、暖かく笑いだした。

 エノハも、クリルもメイも……どえらい目にあっている最中のファノンでさえ、ここに楽しい未来を予感していた。

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