ファノンとクリルが初めて会ったのは、ファノンが10歳の時。
その日は、やはり今日のように、
ファノンはほのかな心細さをまといながら、玄関前のアプローチの石畳に立って見守るエノハと、自警団長の男を見やってから、ふたたび正面を見
そこにはクリルと、その背に隠れて、じっとファノンをにらむメイもいた。
「ようこそ、天使さん」
クリルは今と変わらない、優しい声音で話しかけた。
「あたしはクリル。こっちのは、あなたと同い年のメイ。あたしのことは、お姉ちゃんと呼んでいいからね」
「……」
「ん……? あたしの顔に、何かついてる?」
「いや……おっぱい大きいなと思って」
「ふぅん……」
クリルはファノンの口に両手をつかんだ。
と思うや、クリルは力一杯、思い切りその口を広げた。
「いひゃい! いひゃいよ! ――いひゃいっつってんだろ、胸デブ!」
「どういう形に口を変えたら、まともな事を喋るようになるのかしら」
「エ、エノハさまふぁっ! 助けて! こいつ乱暴すぎっ!」
「初対面の人に向けて、『こいつ』とは、いい根性してるね。どのへんまで裂けば言わなくなるかな」
「フヒィーーーっ!」
ファノンの絶叫が、ルビー・ガーネット通りに響くから、周囲に住む人々も、なんだなんだと思いながら、この家をのぞきにきた。
そこで繰り広げられる茶番に気づくと、心配でやってきていた人々も安心して、暖かく笑いだした。
エノハも、クリルもメイも……どえらい目にあっている最中のファノンでさえ、ここに楽しい未来を予感していた。