メイは
それを繰り返しているうちに、どれぐらい時間が経ったかはわからないが、そのうちに玄関のドアが開いた。
クリルだった。
「メイ……? ど、どうしたの」
クリルはどぎまぎしながら、床に縛られてイモムシのようにされているメイの名前を呼んだ。
「クリルさん……ごめんなさい。ごめんなさいっ……」
メイは脱力したように頬を床につけて、たまらずに涙をこぼしながら、しゃくり上げ始めた。
「メイ……どうしたの、説明して」
クリルはメイのそばまで来ると、その両腕を留める荒縄の結び目に手をかけて、ほどこうとした。
だが、それができないぐらい、紐は固く締めてあることに気づいて、クリルはすぐに立ち上がり、廊下の奥に立てかけてあるダイヤモンドの槍を持って、戻ってきた。
「動かないでね……いま、縄を切るから」
クリルはそうささやくと、メイの両腕のあいだに槍をさしこみ、えぐるようにもちあげ、手足の縄をさっさと切り捨ててしまった。
「んぐっ……クリルさんっ、クリルさんっ!」
身体が自由になったメイは、耐えきれなくなったように、起き上がるやクリルに抱きついた。
メイの肌は、低体温症になっているかのように、小刻みに震えていた。
「私、ダメでした……またファノンを守れなかった。ツチグモの時みたいな無茶はさせないって、思ってたのに……」
「どうしたの、メイ。時間はまだある。順番に説明しなさい」
クリルがメイの耳元でささやくなぐさめは、落ち着けるためだけの気休めだったが、それでもメイに一定の冷静さを取り戻させるには充分だった。
「リッカさんが来て、ファノンを出せって言われて……断ったらこうやって、縛られたんです。その間にファノンは連れて行かれて……」
「二人はどこへ行ったの」
「わかりません……リッカさん、ついてこいとしかファノンに言ってなかったから……」
「なんてこと……!」
クリルはメイの両肩をつかむと、その身体を引きはがした。
「手分けして探すしかないわ。おそらくこれはリッカの独断。でも自警団長の独断とあったら、自警団員にたよることは無理。エノハに
「私は家を出て左側を探します。クリルさんは逆側を……リッカさんの家を探してもらえれば……」
メイは言いにくそうに付言した。
メイ自身をあんな目にあわせたリッカが、もしも自宅でファノンを監禁していたとすれば、かならずクリルにも、メイにやったことと同じことを試みるだろうことが、想像できたからだ。
危険なほうをクリルにまかせるという、うしろめたさ。
だがリッカに勝てるはずのないメイの実力では、こう提案するのが精一杯だったのである。
それがわかるクリルは、けっしてメイを責めるような顔色を見せなかった。
「そうするよ、でも、気をつけてねメイ。そっちだって安全じゃないかもしれないんだから」
「はい……クリルさんも」
そう言葉を交わしてから、二人は同時に、家を飛び出していった。