日の
「……」
ひとり、
それから、
それはもはや、何かの儀式でも始めている風にしか見えないからだろう、そのさまを、河原に住む、ぼろを着た人々がひそひそと小声で話しながら見守っていた。
「よし……」
アズマはそう
そうして、
「よし、じゃないだろ」
その時、背後から、聞き覚えのある声がかかった。
「!」
アズマはとっさに、ボロボロの刀を抜き、そちらへ向けて構えた。
だがその構えは、形こそ整ってはいたが、
そして、その
「なんだか弱そうな構えだな。昼間の
「
「オレ、気配とか消すの得意じゃん? そんなもん朝飯前だよ」
「……」
「
「……」
アズマは不満げに、ぷいっと正面に首をもどした。
「で、ここで周りを
タクトはアズマの正面に座り込んだ。
その
「……僕は暗闇とか、近付いてくる足音とかが苦手だって、話しましたよね。だからこうして夜になると、
「……火を起こしたあと、どうするわけ?」
「こう……こうやって、刀を抱いて、丸くなってまどろむんです」
アズマはじっさいに、膝や肩まで丸め込むように、刀にしがみつくようにして座って、首をうつむかせてみせた。
「その姿勢で眠れんの? エコノミークラス症候群になりそう」
「眠れると思います? 夢くらいは見れますけどね」
「
「……僕は、二年前の記憶がない、と言いましたけど、ひとつだけ覚えてることがあるんです」
「それは?」
タクトはアズマの先の言葉を促しながら、左手に持っていた
「暗い一室でした。光なんて差したことのない、何もない所。木の
その子たちと、その部屋にギュウギュウ
「……」
「だけど、部屋は少しずつ、広くなっていきました。足音が近付くと、そのたびに、兄弟が格子の向こうに連れ出されたんです。そのあとは必ず、遠くから
僕たちは
そこでアズマは自分の身体を
「夜が来るたびに、いえ、暗い場所へ足を踏み入れるたびに、あの日のことが
だから僕は、
こうして
「…………」
タクトは何も答えなかったが、その瞳はわずかに、驚愕で見開かれていた。
「いくらやっても
「暗いところにいる人間が、怖い、ね……お前、相当いじめられてきたんだな。まあ、事情はわかったわ、オレもう行くからな」
タクトは、アズマを慰めにきたのではない。
寄り添うためでも、アドバイスを与えるためでも、共に暗い顔になって悲嘆するためでもない。
知ることは力になる。
端的ではあったが、アズマがどのような経緯をたどって江戸に流れてきたか、タクトは思った以上に聞くことができた気がしていた。
──悲しんでいても、誰も力は貸してくれやしない。
──思いつめても、考えを変えない限り、活路が見いだされることはない。
「その夜を作った奴をぶっ殺せば、お前はよく眠れるようになるだろうさ」
ほとんど捨てゼリフのように、目下のアズマにそう呟くと、タクトはさっと立ち上がり、ひとり背中を丸めるアズマから
「
遠く、四つの
空からは太陽が完全に立ち去り、代わりに月が見え始めていた。