「士門先生……外に出られていたのですか?」
白熱灯による、弱い光のたゆたう地下室で、亀井
その一室の内装は、どこまでもシンプルだった。
亀井が立つのは、せまい制御室で、その部屋自体には、ノート型パソコンが白いテーブルに置かれるのみ。
ノートパソコンの前には二
その向こうには、かなりの広さの一室があけられていた。
その一室の壁には、何かの薬が入ったビンが並んだ
手術台と、手術用マニピュレータである。
その隣に、亀井が先生と呼ぶ男が、立っていた。
「2日に一度はこの地下から出て日を浴びねばな。太陽光によるセロトニン分泌をおこたれば、精神病につながる。北欧では日射量が少ないために、鬱病を起こしやすいそうだ」
男は
その顔は──アズマとどこまでも似通っていた。
寺山士門。
それが、アズマ顔の男の名だった。
つまり、二年前、アズマを川で追い込んでいた、あの『老人だった』男である。
「脳の移植より二年が経ちましたが……指などの
「お前の技術は、さすがだ。第一の弟子よ」
「このような品をお持ちでしたら」
亀井はほんのわずかに、マニピュレータを眺めてから、士門になおり、続ける。
「もっと世間に売り込めば良いものを……士門先生の名は、日本中に響き渡るでしょうに」
「この力は私のみに許された特権だ。他の連中なんぞに
「その未来とやらの技術、もっと活用なさっては? オランダにもアメリカにも、そのような
「ここ最近の
士門は手術室から出ると、亀井の右にたたずむ、『立入無用』と書かれた、手術室の扉とまったく同じ形の
「これは第一歩にすぎん。私が望むのは長寿者でも
士門はそう言ってから、自らのこめかみを何回か指で叩いた。
「私の脳血管は、長年の飲食によって
この身体を、いくら若く取り
「
「何が何でも、奴は私に必要なのだ。奴を……CCE七十を探せ。ここは百万の人間が
「CCE七十を捕らえたら……やはり殺さねばなりませんか?」
「当然だ。奴には永遠の命への秘密が詰まっている。何が何でも探すのだ」
「はい……」
「亀井、お前は外へ出て、奴に関する話を集めてこい。私はいつもの日課をしなくてはならん。外のことは、任せたぞ」
「は」
亀井が返事をするのを待たず、士門はさっさと、先ほど目にしていた、手術室とは違うほうの鉄扉のほうへ向かった。
「……何を見ている、亀井。さっさと行け」
士門は手で亀井を追い払うと、鉄扉を開け、すぐにそれを閉めて鍵をかけた。
そこは、たかだか二畳間ほどの
そして、士門の目の前には、
位牌の横には、セピア色にあせた、しわくちゃの写真と、女物の純金の腕時計。
写真には、きれいに着飾った洋服姿の、30代後半ほどの女性が写っていた。
「ママ……もうすぐです」
士門はぼそりと、女の写真に語りかけた。
「2021年11月13日……これが、あなたとの永遠の別れとなった日。私は必ずその時代へ戻り、あなたを死から
士門は、立てかけられた写真を取ると、それにディープ・キスのような動きで舌を