俺がよく通っていた和菓子屋が、3月31日をもって閉店するという張り出しを出していた。
俺が新人だった頃から顔を出していた和菓子屋で、焼き上がりに時間のかかる『たこ焼き』以外はすべて食べてきた。
ソフトクリームも扱っていたから、ガラスウインドウ越しに食べている姿が丸見えにもかかわらず、夏は必ず食べてから仕事に戻ったものである。俺がソフトクリームを平らげている姿を見て、道行く子供が感化されて、店内に入ってくるのを見るのは、恥ずかしくも誇らしかった。
そこの老夫婦とは、とりとめのない話しかしなかった。身の上話はお互い、しなかったと思う。映画の話、旅行の話……そんな話ばかり。
今日、最後の大判焼きを注文しようと店内に入っていると、先約の客が「お世話になりました、ありがとうございました」と言って去っていくのに出くわす。
俺はあんまり喋ると泣きそうになったから、あまり込み入った話はせずに「リタイアには早いですし、またどこかで会いましょう」と言って別れた。
俺の日常のひとつが消えた感覚。だけど永遠に続くものというのは、実のところ、ひとつたりとも存在はしない。それなのに、俺はこれが永遠に続くと思いこんでいた。
だからこそ、自分の時間と命を大事にするべきというメッセージとして受け取った。
まじ頑張ろ。